3月31日(土) お1
昨日、スターフライヤーの東京・羽田十二時半発のSFJ〇四九便に乗り、住み慣れた東京の街を離れる。
三月二八日に住み慣れた家の荷物を全てトラックに詰め込んだので、東京を離れるまでの数日は実家で過ごした。これまでのように思い立った時に母の所へ行けなくなる…。
そう思うと、何となく母と話しておかないといけないと焦燥の念にかられて、意味もなく母と話し続けた。別に大した話題もないから、芸能人のゴシップネタとか近所にレレレのおじさんみたいな人がいるとかの下らない話ばかりしていた。時折、母は薮から棒に
「早く孫が見たい!」
などと訳の分からないことをつぶやいたので、私は
「コウノトリが連れて来てくれるよ」
と適当に返しておいた。まさに、この親にして、この子あり…と言ったところである。
飛行機がだんだん福岡へ近づいて来た。前来た時にも思ったが、福岡空港は街中にあるので、着陸する時がとても怖く感じられた。飛行機の高度が下がるにつれて、玄界灘の海から見える福岡の街並が姿を表す。飛行機は定刻通りの十四時半にすんなりと着地した。
紫はパイロットの腕が良くないと、福岡空港の離着陸は難しいだろうと柄にもないことを考えた。
飛行機を降りると、空港の構内に地下鉄の駅があった。そこでエコ地下キップを買うように言われていたので、券売機で五百円出して買う。そのまま福岡市営地下鉄に乗り込んで、博多駅へと向かう。これからビオランテ出版へと向かうのである。
以前、事前研修を兼ねた出張へ行った際には、瀬々串専務が迎えに来てくれた。しかし、今回は一日も早く福岡の街に慣れるために地下鉄に乗って、会社まで来るように稲森美和から言われていた。福岡空港から博多駅までわずか二駅だが、福岡での新しい生活が始まっていると思うとワクワクする。
会社に着くと、土曜日にも関わらず瀬々串専務と稲森美和が待っていた。
会社に着くと、土曜日にも関わらず瀬々串専務と稲森美和が待っていた。
「久しぶりやね。桜田さん!」
「紫さん、お待ちしておりましたよ!」
「瀬々串専務、美和さん。わざわざ、ありがとうございます」
「そりゃ、ビオランテ出版、期待のオールドルーキーの総務主任・桜田紫様が来られるとあれば、喜んでお迎え致しますよ」
瀬々串専務は相変わらずで、紫は思わず吹き出してしまう。隣で同じように美和も笑っていた。
「専務、オールドルーキーの総務主任って…。一体、何ですか? 紫さん、すっかり飽きれていますよ…」
「稲森君は分かっとらんね…。エスペランサ出版の総務を極めた桜田さんが、うちの総務主任として再スタートを切るとばい。そりゃ、オールドルーキーに決まっとるやろ。なあ、桜田さん」
「ああ、はい…」
別に総務を極めていると言えるほど、総務の仕事に精通しているとは思えないのだが…。東京の人にはない軽快な会話のリズム。どことなく、ラテンの陽気な感じがいい。改めて、福岡出向の話を引き受けてよかったと紫は思った。
「まあ、あいさつはそれぐらいにしましょう。また、月曜日に改めて全員の前であいさつをしてもらいますからね。では、稲森君、よろしく頼むばい!」
「かしこまりました。それでは紫さん、行きましょう!」
「美和さん、よろしくお願いします」




