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焼けくそレーシック  作者: あまやま 想
第4章 再生
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3月17日(土)  ※※3

 それから、まだしばらく沈黙が続いた。二人は料亭で出された料理をしばらく食べながら、何か話題がないか探していた。


 こんなおいしくて高価な料理はそうめったに食べられるものではない。そう思うと、貧乏性ゆえについ料理に集中してしまうのだ。いやいや、話題を探さないと…。必死になって考えたが、何も思いつかなかった。そろそろ、潮時なのかもしれない…。


「そろそろ、帰りましょうか?」


「桜田さん、お願いがあるのですが、携帯番号と携帯のメールアドレスを教えて頂けませんか?」


「小倉さん、申し訳ありません…。私、四月から福岡へ行くので、ご期待には応じられません…」


「違いますよ…。別に関係を深めようとも思っている訳ではないのです。ただ、形だけでも付き合っている体裁を取っておけば、もう、こんな形だけのお見合いをしなくても済むのかな…と思いまして…。無理を言っているのは承知です。でも、桜田さんにとっても、けして悪い話ではないと思いますよ」


 紫は小倉が急に変な事を言うので、何を考えているのか理解に苦しんだ。別にそんなことをしなくても、一人芝居をすれば、それでいいじゃないか。なぜ、そんなうさん臭い芝居の片棒を担がなければならない?


「いやいや、それなら一人芝居をされたらいいと思いますよ。私、そう言うの苦手なんです。嘘つくとすぐにばれるんです。顔に書いてあるよ…とよく言われるんです」


「それじゃ、ダメなんです。僕も嘘つくのが下手なので、一人芝居なんてできません。だから、お願いしているのです」


「ダメなものはダメです…」


 紫は急に気味が悪くなった。なぜ、この男はこんなことを初対面の人間に頼めるのだろうか。ますます、理解できなくなった。それとも紫の事をなめてかかっているのだろうか。これまでの経験上、この手の男はさけたほうがいいと紫は直感する。


「あっ、母から電話だ。本当に申し訳ないですけど、これで失礼します」


 そう言って、紫は急いで荷物を持って、部屋を出る。さらに駆け足で料亭を出る。母からの電話なんて全くの嘘である。こうでもしないと、あの部屋から出る事は難しかっただろう。


 もう、本当に最低…。やっぱり、男なんて、みんな自分のことしか考えていない。いや、少数ながら相手のことを心から想ってくれる男性もいるだろう。紫はつくづく、自分の男運のなさを恨んだ。


 もう、しばらく恋なんかしないぞ。恋なんて、無理矢理するものではない。やはり、自然の流れに身を任せるべきである。


 いや、恋だけでなく、何事も自分一人であがいても、どうにもならない事ばかり…。少しでも自分のやりたい事や、欲しい物を手に入れるために努力する必要はあるが、それがそのまま結果になる訳ではない。


 結果なんて、周りの人々の魂胆や思惑とか、時代背景とかの自分ではどうする事もできない外的要因と、自分の努力とか思惑とかの総和なのだから…。結局、なるようにしかならない。


 紫は外に出ると、気分を入れ替えた。春のさわやかな風が気持ちいい。これまでの鬱積した気分が嘘のように晴れてきた。紫は軽い足取りで街を歩き出す。


 こんなにめかしこんだ格好では自由に身動きできないので、とりあえず実家に戻る事にした。とりあえず、母には「うまくいかなかった」とだけ報告しておこう。今はもう、全てがどうでもよいと感じられる。


 どんなに悪いことが続いても、一人でも分かってくれる人がいると思えるから、何とか生きていける。そう思わないと、とてもじゃないけどやってられない…。まあ、これからのことは福岡に行ってから、また考える事にしよう。

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