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焼けくそレーシック  作者: あまやま 想
第4章 再生
87/150

3月14日(水) ×1×

 昨日、一日中部屋の後片付けをしていた。おかげで段ボールへの箱詰めでも三分の一ほど終わった。引っ越し業者の予約もできた。予定では二八日にトラックに荷詰めして、四月一日に福岡の新居へ荷下ろしする。


 この日は昼過ぎから仙石駅前のライブボックスで、すみれのライブのリハーサルも兼ねて、紫の音響操作のリハーサルをしていた。


 十数年前とは言え、案外、体は覚えている事に紫は驚かされた。すみれはアコースティックギターの音だけでなく、ピアノやクラリネットなどの音を事前にパソコンで編集したものをライブで流す。そうする事で、アコースティックギターの音がより生き生きと響くようになる。


 また、曲によってはアコースティックギターを使わないので、その時は歌いながらのパフォーマンスも可能になるとすみれは言っていた。音響担当がうまく音の強弱や音量を調整しないと、ボーカルの声やアコースティックギターの音を台無しにするおそれもある。


 そのため、本番一時間前まで入念に練習と調整を続ける。本来なら、何日かかけて行う音合わせを、たった半日足らずで行うのだから、無理はすみれだって承知の上だろう。



月明かりの下で いつも待ち合わせしたね 

お互いにいろいろと忙しくて 

逢いたくても逢えない日が続くと

人知れず 逢いたい思いだけがつのります


私の夢はあなたの夢 あなたの夢は私の夢 

二人の夢が叶いますようにと 

何度も二人で月明かりの下 願ったね…


いつしか 夢を追い続ける私と 

夢をあきらめて ささやかに生きる事を決めたあなた

少しずつ二人の間に広がる谷間 私はそれに気付けなくて

あなたはある朝 「もう疲れたよ」とだけ言い残して

私の下からいなくなった


満月の夜は ただあなたのことを思い出す

あなたもこの月を見ていればいいな

今でも私は 夢をあきらめる事ができずに 

しぶとく歌い続ける 月明かりの下で…



 リハーサル中は「月明かりの下」が何度も頭の中を駆け巡って、いろんなことを考えさせられた。


 もちろん、奥村すみれの持ち歌はこれだけではなく、十数年も活動しているので、百曲以上の作品がある。この日はすみれがソロになってからの曲を中心に歌っていた。


 「月明かりの下」はグラーノ・ベルデが解散して、すみれが最初に作った曲である。聞いていると恋人との別れを想像させるが、実はソロでやっていく決意を歌に込めたと、すみれは言っていた。


 しかし、実はドラムかベースのどちからはよく分からないが、密かに恋をしていたのかもしれない。まあ、どんなにあれこれ考えようとも、真相は作った本人にしか分からない事である。

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