3月14日(水) ×2×
ただ「きれいになったね」の一言が欲しくて
私頑張ったのに… 運動もしたし ダイエットもした
プチ整形にも 手を出した
コンタクトが合わないから メガネを外すために
レーシックもした
それでもあなたには届かない あなたがどんどん遠ざかって行く
心磨きを置き去りにして 私はどうすればきれいになれるか
ただそれだけを考える
そして私は「きれいになったね」ともっと言って欲しくて
顔だけでなく 体も心も すみずみまで切り刻む
「どう、この曲? 『整形一人歩き』って言うタイトルにしようかなと思っているんだけどさ…。紫の会社の同僚の話が結構衝撃的だったから、試しに作ってみたけど…」
リハーサルの間に陽美や水戸あおいの事を話したら、すみれは早速曲に仕立てていた。すみれの中にある何かに触れたのだろう。しかし、即興と言うだけあって、何か雑な感じが否めない。
「そうね。即興だからか、なんか荒削りな感じがするな…。そう言うのって、詩にするのが難しいんじゃないの?」
「まあ、今思いつくままに作ったからね。さすがに今日はやらないけど、これから言葉を一句一句見つめ直したり、音程を一つずつ調整したりしていかないとね…。どんな曲だって、まずは作らないと話にならないからね。作ってみて良ければ、さらに手を加えて、一つの作品に仕上げる。作ってみてダメなら、ボツにする。創作活動なんて、そんなことの繰り返しよ」
「そうなんだ…。なんかシビアな世界…。そんな世界で生き続けるすみれは本当にすごいね」
「別にすごくなんかないよ…。私なんか、みんなに支えられているから、こうやって好きな事を続けられる。それにずっと音楽をやっているせいか偏った世界しか知らないから、紫の会社の話とかすごく新鮮…。もっと、私の音楽にいろんな世界を取り込まないとダメだな…と思う」
休憩の時、紫はヘトヘトだったが、すみれは次の新曲をどうするかなんて事を考えている。好きな事を一途に打ち込む人は、凡人とは何かが根本的に違うのかもしれない。とてもじゃないが、紫はマネできない。会社に守られていないと、人間として生きていくこともできないだろうから…。
昼からのリハーサルが功を奏したのか、夜七時半からの本番は成功裏に終わる事ができた。紫は何度か音響操作ミスをしそうになったが、他のスタッフのフォローで未然に防ぐ事ができた。証明担当とタイムキーパーの二人がベテランで、他の人にも気を配りながら、作業を進められたおかげである。
紫は久々にすみれのライブ会場で音響担当ができたおかげで、学生の頃の初々しい気持ちを思い出す事ができてよかったと感じていた。もう三二か…。大学を卒業してから十年が経つ。
この歳になれば、大学で一浪したことなど、もはやどうでもよくなる。ただ、この歳になって、学生気分を味わえたことを、ただ嬉しく思うのであった。




