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焼けくそレーシック  作者: あまやま 想
第4章 再生
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85/150

3月12日(月)  ÷1÷

 この日は朝から終日、身辺整理に追われていた。やはり、みんな考える事は一緒なのだろうか、総務課の全ての出向・退職者が同じように身辺整理をしていた。


 出向・退職者の引き継ぎは、原則として先週までに終わっているはずなので、今引き継ぎしているのは支社・営業所間異動者か本社内異動者である。総務課では誰一人として、支社・営業所間も本社内も異動該当者がいないため、身辺整理一色に染まっていた。残る人達も仕事にならないのか、なぜか机の整理をしている。


 午後三時頃からは自然と机の移動が始まった。そして、五時過ぎには机の移動が終わり、早くも新年度の新総務班の準備ができた。あとは現在の人事課である新人事班がこの部屋にやって来るのを待つだけである。


 四月からこの部屋は人事総務課となる。初代人事総務課長には、現在の人事課長の横滑りが決定している。総務課が十六人から八人に半減するのに対して、人事課は十三人から十人と三人しか減らない。


 しかも二人は定年退職と寿退社、あと一人は山部の新総務班への移動によるものなので人事課はほぼ無傷だ。つまり、部屋をとなりから異動させるだけである。


 つまり、四月以降、人事課長の丹本が新人事総務課長となり、その下に総務班九名と人事班九名がつく体制となる。現在、総務課が使っている部屋は広く、十九人の机を並べても余裕がある広い部屋である。


 一方で、人事課が使っている部屋は十三人で手狭なため、移動させる事に決まったとされる。だが、一説では総務課を移動させると人数も半減した上に部屋移動となれば、いかにも総務課が人事課に吸収される印象を与えるため、この体裁を保ったともっぱらの噂となっていた。


 紫は全ての身辺整理をどうにか終える事ができたので思い切って、火曜から木曜まで有休を取る事にした。もう、会社に来ても何もする事が無い以上、残っている有休を消化するのが一番である。


 少しでも早く家の片付けができれば、十九日以降に余裕ができるので、ぶらりと旅行ができるかもしれない。武下定秋が出不精で飛行機嫌いだったため、五年間の間、海外旅行はおろか、東京から出る事も数えるほどしかない。紫は学生時代にスペインやイタリアを旅行し、就職してからは東南アジアや中南米など多くの国々を旅して回っていた。五年前までは…。


 付き合っていた時は、これまでたくさん旅行したからもう十分だし、彼のためなら全てを投げ捨ててもいいとさえ思っていた。今思うと、何て馬鹿なことをしたのだろう…。


 定時間際に、大芝課長に有休の申請をしたら、


「会社に来ても、もうする事がないなら、遠慮なく休みなさい。こんなものは余らせても仕方ないんですから…」


と、あっさりと認めてくれた。彼自身も明日から三日間休みらしい。


「もう、新総務班の山部班長と大泉班長補佐がいれば、仕事が回りますからね。私なんかいなくても、何も問題ありませんから…」


 自嘲気味につぶやく大芝が心なしか寂しそうに見えた。まあ、逆に言えば、それだけ順調に新体制への移行が進んでいると言う事である。老兵は去るのみと行ったところか…。紫は老兵でもなく、ただの一兵卒だが、もうエスペランサ出版では用無しの身である。


 いい感じって言っていたいけど…。この頃は日がどんどん長くなり、五時半を過ぎても明るくていい。一月は五時にはもう真っ暗だったので、それだけでも心が軽くなる。


 それに引き換え、福岡は西にある分、日の出も日の入りも約四〇分遅くなる。日の出が遅いのはつらいが、日の入りが遅いのはありがたく感じた。二月末の時点で、六時過ぎまで外が明るいと言うのはそれだけで得した気分になる。

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