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焼けくそレーシック  作者: あまやま 想
第3章 決着
62/150

2月29日(水)  ◎1◎

 とうとう、東京へ帰る日がやって来た。紫は朝、ビオランテ出版に行って、しばしの別れを告げる。もちろん、またすぐに戻って来ることを強調しながら…。瀬々串専務だけがちょっとだけ苦笑いしていた。それから、稲森の車で福岡空港へ向かう。彼女はこの日、取材のついでに、紫の送迎を買って出てくれた。


「紫さん、一ヶ月後待っているからね」


「美和ちゃん、二週間ありがとう! 四月からもよろしくね」


「こちらこそ、じゃあね…」


 そう言い残して、稲森は車で走り去って行く。紫は十一時五五分発スターフライヤー四四号の搭乗手続きを済ませてから、エスペランサ出版総務課へのお土産を選ぶ。


 東京に戻ったら、そのまま会社に行って、沢木部長や大芝課長に出張報告をしないといけない。エスペランサ出版では一週間以上の出張だと、出張報告を所属部長の所に直接赴いてしないといけない変なルールがある。そのため、出張報告書を作成して終わりとはならない。


 しかも、まだ出張報告書がまだ作成しきれていなかったので、飛行機を待っている間に急いで仕上げる。ある程度は昨日の仕事の合間や飲み会の後にもやったが、あと二割ほど残っていた。おかげで飛行機に乗る前にどうにか終わらせることができた。


 紫は飛行機に乗っている間、出張の疲れがたまっていたのか、羽田に着くまでずっと寝ていた。


 一時半過ぎ、羽田空港に着いた。紫は目を覚ますと既に空港だったので、空の上からの富士山を見逃したことを軽く後悔した。その後、スーツケースの受け取りなどを済ませて、異動ができるようになったのが二時過ぎであった。


 紫は出張報告を終わらせたら、さっさと家に帰るつもりでいたので、京急に乗る前に空港ビル内にあるスタバでしばらく時間調整をする。スタバで一息ついてから空港を後にしたのが午後三時前。それから電車で揺られること三十分。紫は二週間ぶりのエスペランサ出版にたどり着いた。


 もう、十年もここで働いていると言うのに、わずか二週間の間、席を外していただけで全く別の会社へ行くような不思議な感覚に陥る。意を決してから、紫は総務課へと向かった。


「二週間ぶりに、戻って参りました」


「おお、桜田君、お疲れ様! 福岡出張はどうだった」


「おかげ様で、楽しく仕事ができましたよ」


「そうか、では、まず大芝課長に報告をしてくれ」


「わかりました」


 大泉班長は相変わらずであったので、それだけで紫は安心した。隣の席の陽美が小さな声で、


「おかえり。後で福岡の話をいろいろ聞かせてね」


と言ってきたので、「わかった」と短く応じた。そのやりとりを見て、水戸あおいがさりげなくにらんできた。水戸あおいは悪い意味でいつも通りであった。

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