2月29日(水) ◎2◎
「大芝課長、先ほど、福岡出張を終えて戻って参りました」
「そうですか。それは本当にお疲れ様でした。お疲れだと思いますが、沢木部長がお待ちのようなので、出張報告を先に済ませて下さい。では、一緒に行きましょうかね…」
「あれっ、課長も同席されるんですか?」
「そうですよ。桜田さんが同じことを二回もしなくていいように、部長が配慮されたんですよ」
「ありがとうございます」
大芝と紫はそのまま人事部長室へと向かった。もちろん、出張報告書を忘れないように持って行く。部長室へ向かう途中、二人は完全に無言であった。
「桜田さん、お待ちしておりましたよ。まずは福岡出張お疲れ様でした」
「ありがとうございます」
「ところであれからワンピースは少しでも読まれましたか?」
「はい、あれからすっかりはまってしまいました。今、アラバスタの対決編まで読みましたよ…」
「そうですか。じゃあ、二〇巻当たりですね…。あそこはクロコダイルとの戦いが見物です。その後のCP9編とかウォータゲート編とか面白い話が続きますからね…」
沢木と紫がワンピースの話を挨拶代わりにしている間、一人蚊屋の大芝…。そのことに二人がようやく気付き、話を本題である紫の福岡出張報告へと移そうとしたのだが…。
「ワンピースって、あの週刊少年ジャンプに連載されているワンピースですか?」
「そうですよ。大芝さん…」
「部長、読んでおられるんですか?」
「孫が読んでいて、ちょっとでも話題を合わせようと読み出したら、すっかりはまってしまいましたよ」
「そうですか。やはり、コミック売り上げ一億冊は伊達ではありませんね。退職したら暇になるから、私も読んでみようかな…」
「それなら、私が一巻からお貸し致しますよ。桜田さんにも貸すので、遠慮せずに仰って下さいね」
今度は沢木がワンピースの単行本を貸し出すと言い出した。紫は、ここは中学校か?…と思わず突っ込みたい衝動に駆られたほどである。
それに平社員が部長から何かを借りるとは恐れ多くて、とてもじゃないができない。紫は部長のありがた迷惑な申し出を丁重に断った。大芝も同じように断っていた。まあ、課長の場合は、適当に部長の話に合わせていただけかもしれないが…。それからようやく本題に入った。




