2月12日(日) √1
いつもの休日と同じように、のんびりと朝寝坊する。十時半過ぎににようやくベッドから出て、ラジオをつける。日曜日のFMラジを聞くだけで、いつもよりものんびりとした気分になれるのは何でだろうか…。
紫はのんびりと朝風呂につかりながら、ゆったりとした朝を満喫していた。風呂から上がると、昨日、献血ルームでもらった野菜ジュースでのどを潤す。それから朝食だか昼食だかよくわからない食事の準備をする。準備と言っても、コーヒーメーカーにコーヒー豆を入れて、トースターにパンを入れるだけだが…。
その間に洗濯機も回しておく。洗剤さえ入れておけば、ボタン一つで脱水までやってくれるとは本当にありがたい。あと、勝手に洗濯物を干したり、たたんだりする機械が開発されたら言うこと無しだが…。柳田理科雄先生の「空想科学読本」によれば、できないことは無いが、実用化はかなり厳しいらしい…。
空想科学読本のようにマンガや昔話での現実には起こりえないことを、大真面目に科学分析するのはとても痛快である。恋心とか、感情とかも、科学分析して、はっきりと答えが出せたら、どんなに楽だろうか…。
ちょうど、二週間前の日曜、ラジオから流れて来た高橋優の「誰もいない台所」を聞いて以来、すっかり高橋優の世界観にはまってしまった。それから武下定秋に
「ちょっとでもいいから会いたい!」
と何度もメールで送っているが、何も音沙汰はない。会社でばったり出くわしたり、総務課で会ったりするが、水戸あおいに無視するように言われているのか、目も合わせてくれない…。たまりかねて、奴が自販機の前に一人でいるのを見つけた際に、
「やっぱり、私、納得できないよ。せめて、納得できるようにきちんと説明してよ…」
と、問い詰めた。この時ばかりは、さすがに観念したのか、逃げはしなかったが、見るからに困り果てていた。
「説明したら、納得するのか?」
「……」
「無理だよ。俺がどれだけ理由を並べて説明しても、桜田さんを納得させることはできない…」
そう言って、すっかり青ざめた顔した武下定秋は音も立てずに、営業一課に戻ろうとしていた。
「突然、別れを告げられた身にもなってよ…」
「そのことについては、本当に申し訳ないと思っている…。でも、もう許してくれませんか…。俺だって、よく分からないんだ。考えれば、考えるほど、分からなくなるんだ…。今はただ、謝ることしかできない…」
「何、それ…」
紫が思わず、大きな声でつぶやくと武下定秋は大きな足音をたてて、逃げるように営業一課に戻って行った。もう、涙が涸れていたのか、泣きたいのに、不思議と涙は出なかった。
結局、奴と話せたのはそれっきりである。なんで、あんな奴と五年も付き合っていたのだろうか…。そんな思いすらつのる。しかし、それ以上にいい所もたくさん知っている。せめて、思い出の中の彼だけは悪者にしたくなかった。武下定秋との思い出を否定すれば、付き合ってきた自分も否定することになるから…。それだけは何としても避けたい。




