1月26日(木) §2
もう、すっかり忘れていたのに、交番からの電話のせいで嫌なことを思い出してしまった。なんだか、腹が立ってくる。それにしても、彼も警官からこっぴどく注意を受けたのだろうか? 紫の場合、盗難届が出ていなかったので、検挙されなかったが、今回は紫が盗難届を出している。そうすると、彼は今、検挙されているのだろうか…。でも、未成年だから、補導されて終わりなんだろうな…。
夕方、仕事を早めに切り上げて、もよりの西仙石駅の一つ手前にある仙石駅へ向かう。紫は何か面白い展開になって来たなと思った。さっきまで嫌だったが、こんなこと滅多にないので楽しまないと損である。自転車を盗むような高校生なんて、きっとガラの悪いヤンキーに違いないと、自分のことを棚に上げて、勝手に決めつけていた。
交番に着くと、以前とはまた違った警官がいた。紫が名乗ると
「先ほど電話を差し上げた松島です」
と大きな声を出して、松島巡査がやって来た。狭い交番の中で松島の若々しい声が響いた。それだけではなく、別室からは他の警官の大声が響く。前、来たときはこんなに騒々しくなかったのに…。
「さて、桜田さん。まずは自転車が見つかった時の状況ですが、昨夜七時四〇分頃、川中島高校三年生の女子、小松原綾が下校中に無灯火で乗っていたので、無灯火のことを注意しました。その際、防犯登録をチェックしたところ、桜田さんの防犯登録であったため、自転車窃盗の現行犯として、合わせて検挙しました。ただ、書類送検を望むかどうかは、桜田さんが決めることです。どうなさいますか?」
どうなさいますか…って言われても困る。それを決めるのが警官ではないのか。しかも、今ここに女子高生とその親御さんがその件で出頭しているらしい…。ああ、それで別室から他の警官の声が響くのか。
紫は勝手に男だと決めつけていたが、盗んだのは女子高生だった。まあ、自分も女だし、悪いことをするのは男だけでないと紫は思い知らされた。しかも、もうすでに大学合格を決めているらしい…。なぜ、こんな大事な時期にこんなことをするかな…と思わずにはいられない。
もし、紫が示談ではなく書類送検を希望すれば、少女の大学合格も間違いなく取り消されるだろう。松島巡査曰く、自転車がパンクして塾に遅れそうだったから、偶然鍵をかけ忘れた紫の自転車に乗って行ったとのこと。本当か?…と思ったが、その辺りは、紫も少しばかり経験があるので、分からなくもなかった。でも、それにしても…。




