1月26日(木) §3
「急にそんなことを聞かれても、答えはすぐに出せません」
「そうですか…。それではしばらく考えてから、改めて答えを聞かせてください。でも、なるべく早く結論を出されてください。本日から六〇日以内に回答がない場合、書類送検はされませんので…」
「相手方と話してから、決めてもいいですか?」
「それは別に構いませんが、本件を利用して恐喝まがいな行為をされると、逆に桜田さんの立場が悪くなりますので、それだけは気をつけてください」
そう言って、松島は立ち上がった。紫も立ち上がって、松島と一緒に交番の建物を出る。それから、松島は交番横に置いてある盗難自転車を紫に引き渡した。紫は赤い自転車を受け取り帰ろうとした時のことである。
なんと別の警官に連れられて、小松原親子が出て来た。綾が制服を着ていたので、すぐに分かった。警官が交番に戻って行ったのを見計らって、母親が紫に話しかけて来た。紫は面倒くさいと思いながらも、ますます面白くなったぞと思うのであった。
「桜田さんですよね…」
「はい、そうですけど…」
「先日は娘がご迷惑をかけてしまい…、大変申し訳ありませんでした…」
交番の前で深々と頭を下げる小松原親子。ここは駅前で人通りが多いと言うのに…。こんな所で急に謝られても困る。
「ちょっと困ります。止めてくださいよ。こんな所で頭を下げられたら、周りから変に思われますから…」
紫がそう言うと、二人は頭を上げた。それから母親が、時間があれば、近くの喫茶店で話ができないかと申し出てきた。紫はそれを受け入れた。三人は商店街に入ってすぐの所にあるスタバへと場所を移した。紫はスタバの前に自転車を止める。スタバの前にはたくさんの自転車が留めてある。商店街アーケード内では自転車を留めることが禁じられているのだ。
「単刀直入に申し上げます。例の被害届を取り下げて頂けないでしょうか…。もちろん、それなりの償いをさせて頂きますので…」
母親はアメリカン、娘はアイスグラニータ、紫はカプチーノをそれぞれ頼む。注文の時、紫がお金を出そうとしたら、
「誘ったのはこちらですから…」と母親が有無を言わずに支払った。席に着くや否や、母親が早速切り出して来る。まさに予想通り。
「娘さんは本当に反省しておられるのですか? それに大切な時期でありながら、そのような行為をするなんて、ちょっと軽率すぎませんか…。先ほど、交番で伺ったのですが、娘さんは塾に遅れそうだから、パンクしている自分の自転車を放置して、私の自転車を盗んだそうじゃないですか。そのせいで、私は新しい自転車を買ったり、交番に被害届を出したりと、いろいろと大変でしたよ」
紫はいかにも被害者らしく振る舞う。そんな理由で自転車を盗まれたらたまらないと言ったものの、紫も似たようなことをやっているので、実のところ、あまり強く出られないはずなのに…。
「本当に申し訳ありませんでした。私、むしゃくしゃしていたんです…。センター試験で全く点が取れず、第一志望校を受験できないことが悔しくて…。そんな時に自転車がパンクして、もうどうにでもなれって…気分になって…。とんでもないことをしてしまいました…」




