4月9日(月) ち2
三時頃、取材班の猿渡・牧本・稲森が福岡天神レーシッククリニックの取材から戻って来た。そして、三者三様に今回の取材についての説明を始めた。
そして、稲森美和が珍しく赤ブチのメガネをかけている。普段、メガネをかけると可愛げがなくなると、どんなに目が赤くなってもコンタクトレンズをつけている彼女がメガネをかけている。
美和は裸眼で左右ともに0.1ないため、圧縮レンズを使ってもビン底メガネになるから、それが嫌だと昨日夕食を食べていた時に言っていたのに…。
「紫さん、私、潰瘍性角膜炎になっていると、友丘先生に言われたんよ…。せっかく、取材するなら実際の診察の様子を知っておいた方がいいと言われてね。私がコンタクトしているから、昨日挨拶に行った時に見てくれることになったんだけどね…。まさか、コンタクトでこんなことになるとは思わんかった…」
そこで三人は写真を見せてくれた。それは三人の両目の角膜を拡大して映し出した写真であった。猿渡と牧本の角膜は正常であり、とてもきれいに映し出されていたが、美和の角膜は表面がささぐれだっている上に所々で白濁した部分が見られる。
「桜田さん、コンタクトの長期使用がこのような状態を生むとは、今日の取材まで全く知りませんでした。コンタクトの長期使用は大変危険なのに、そのような事実を知っている人がほとんどいないことは由々しき問題ですよ。ねえ、牧本さん」
「猿渡さんの言う通りですよ。私達は無意識のうちに、メガネとコンタクトは安全で、レーシックは危険という図式でみていたけど、実際はコンタクトも危険だと言うことがよく分かりました」
猿渡と牧本もそれぞれ、取材で感じたことを話している。猿渡はメガネを常時利用しているが、かつてはコンタクトレンズを使っていたこともあるようだ。
しかし、体質的にコンタクトレンズは合わずにメガネでずっと過ごして来たようだ。一方、牧本は裸眼で視力1.5あり、これまでメガネやコンタクトレンズのたぐいとは無縁で生きている。極めて幸運な人だ。
このような方か見れば、メガネもコンタクトレンズもレーシックもどうでもいいと思うに違いない。
「そこで紫さん、私、潰瘍性角膜炎が良くなったら、思い切って、レーシックを受けようと思うんちゃけど、どう思う?」
「どう思う? …って言われてもね。まあ、記者が実際に体験したことを記事にするのは悪くは無いよね。あとは企画が通ればいいね。友丘先生はすでに乗り気なんでしょう?」
もし、稲森美和がレーシックを実際に体験してくれるなら、紫の仕事は減るので大助かりである。美和がレーシックするまでの監修は久留米陽美に任せてしまえば、紫は事務に専念できる。
「それでは桜田さん、今月の企画会議でこの企画を後押ししてもらえれば助かります。取材班を代表して、主任の猿渡からお願い申し上げます」
「猿渡さん、そんな止めて下さいよ。そんなことしなくても、私はこの企画を後押ししますから…」
「桜田さん、ありがとうございます。私、牧本からもよろしくお願い申し上げます」
「私、稲森からもよろしくお願い申し上げます」
ああ、やれやれ…。まあ、事前に根回しをしておくのはいかにも日本らしい。企画会議なんて所詮、全体で追認する場面に過ぎない。紫への挨拶を終えた三人はそのまま瀬々串専務の所へ向かっていくのであった。




