4月11日(水) ☆☆1
「桜田さん、また面白い企画が始まったようですね…」
井出が挨拶代わりにつぶやく。どうやら、井出は介護のかたわらで七島社長や瀬々串専務と連絡を取り合っているようだ。毎週水曜日は社外顧問の井出が来る日だった。
「斬新な企画は、社風ですからね」
「えっ?」
「福岡は、目新しいものが好まれる土地柄ですからね。九州の中心地として、九州各県はもとより、全国から人がやってきます。典型的な支店経済都市です」
「確かにそうですね…」
「目の肥えた読者を満足させられない雑誌は、福岡では生き残れません。そんな中でもビオランテ出版は福岡で一番の地域情報雑誌として生き残り、今や九州制覇を狙うまでになりました」
どうやら、今日の講義内容は月刊HAKATAの歴史について…になりそうである。午前中は井出と一緒に銀行へ挨拶に行っていた。
そして、昼食後戻って来てからの研修となるので少し眠い。眠くならないように眠眠打破を飲んでおけばよかったかも…。
「ところで、桜田さん」
「はい!」
「私にもよく分かるように、改めてレーシックの仕組みと、これまでの経緯を説明してもらえませんか?」
「えっ?」
「私だけでなく、瀬々串専務もよく分かっていないようですので、今から呼んできますね」
とんだ無茶ぶりである。総務主任に関する業務知識や技術を高めるための研修なのに、なんでレーシックの仕組みやこれまでの経緯を説明しないといけないのか? これも社風か?
まあ、十一人しかいない会社だし、取材班は三人とも取材に出ているから仕方ないか…。
「井出さん、桜田さん、研修中に申し訳ありませんね…」
「専務、いいんですよ。これも研修の一環ですよ。総務主任と言えば、経理だけでなく、会社の全てに精通していなくてはいけません。事務仕事だけできても、我が社では通用しないでしょう?」
「井出さんは、相変わらずだな…。それでは桜田さん、よろしく頼みますよ。この説明次第ではレーシックに関する企画を全て却下するかもしれないので、そのつもりで臨んで下さいね」
いつも冗談ばかり言っている専務だが、仕事に関しては一切の妥協を許さない人である。井出に負けず劣らず厳しいからこそ、専務まで登り詰めているのだ。
二月の事前研修の時はあまり分からなかったが、実際に一緒に仕事をしてみるとよく分かる。しかし、なぜ紫なのか?
「専務、一つだけ質問してもいいですか?」
「いいですよ」
「これは取材班の企画なのに、なぜ私の説明で判断するようなことをおっしゃるのですか?」
「それは桜田さんが我が社に来たけんでしょう? そうでなかったら、今頃、取材班がレーシック体験記ば、やりたいなんて言わんかったはずです。きっかけが桜田さんだから仕方なか…」
そこまで言われたら、紫も何も言い返せない。仕方なく、レーシックの仕組みとこれまでの経緯をお二方に説明するのであった。




