4月6日(金) で3
「猿渡さん、実は私、中学の頃から日記を書いておりまして、レーシックのことも含めて、約二〇年間の記録を残しております」
「桜田さん、見かけによらず、マメですね〜」
猿渡が余計な一言を挟む。職員同士の会話だからまだ許されるが、これが取材だったら、相手によっては取材を断るのではないか? 大丈夫か…我が社の取材班長…。やはり、こんな人に日記を預ける事はできない。
「ただ、人に見せる事を前提に書いている訳ではないので…、私の方で人に見せられない部分をカットしたものを、お渡しすると言う事でよろしいですか?」
「桜田さん、それは稲森さんにも見せる事はできませんか? できれば、雑誌にはギリギリの所まで載せたいのですよ…。そうしないと、リアリティのある記事は書けません」
牧本が粘る。三人の中では牧本が一番バランス取れているような気がする。しかし、美和に対してであっても、あの日記帳をそのまま見せるのは、紫の心の中を丸裸にするようなものであり、とてもじゃないが了承できない。
「僕らは席を外すから、ちょっと、稲森君と話してみてくれませんか? せっかくの花金なのに、こんな時間に引き止めて申し訳ない…。では、来週までに結論を出してもらえたらと思います。行きましょう、班長…」
「ちょっと、猿渡さん、牧本さん…。私、まだいいと言っていませんよ…。それに編成会議だってまだ通してないじゃないですか?」
紫が質問しているにも関わらず、猿渡と牧本は去って行った。実に迷惑な話である。全く、やぶから棒に何だって言うのか…。こんなこと、エスペランサ出版ではなかったのに…。これだから中小企業は…。
「紫さん、急に変な話を持って来て、ごめんなさいね…」
「ううん、いいのよ。美和さん…。まさか、体験記を書かされることになろうとは思ってもいなかったから…。さすがは九州ナンバーワンのビオランテ出版!」
「うわっ…皮肉たっぷりですな…。まあ、仕方ないか…」
そう言うと、稲森美和が苦笑いする。さすがの美和も紫の日記をそのまま見ようとは思わないだろう。しかし、かわいい顔をして仕事の鬼の一面もあるからな…。
「日記の前に、まずは桜田紫さんの事前取材からしないとね…。今日は金曜日だし、もう定時をすぎたから、今から取材をかねて飲みに行きましょう」
「もう、美和はいつもそれなんだから…。この、飲んべえが…」
「酒でも飲まないと、取材なんて激務はこなせません…」
「よく言うよ…。そんな事言ったら、稲森さんは取材費をプライベートな飲み代に流用しているとか、よからぬ噂が流れるよ…」
「うわっ、総務主任、こわっ…」
こんなやり取りができる同僚がいることがありがたい。しかし、レーシック体験記はどうにかならないのか…。せっかくなら、読者から体験談を募集したらいいのではないかと思った。よし、後で美和に提案してみよう。




