4月4日(水) け3
「とりあえず、予算編成に関しては…ここまでにしましょう。次は総務主任としてあるべき姿についてです」
「はい」
「桜田さんはこれまでにエスペランサ出版で総務の仕事を長い事されているから、なんとなく分かるかと思いますが、我が社とエスペランサ出版の違いは何ですか?」
「まず、会社の規模が違います。そのため、総務の仕事もエスペランサ出版ではかつては十六人で分業して仕事しておりました。まあ、今ではリストラで半分の八人で仕事をこなしているようです。しかし、我が社では総務の仕事を主任がほとんど一人でこなさないといけません。そこが最大の違いですね」
「その通りです。さすがですね」
井出はそう言うと、『総務主任は我が社の何でも屋』とホワイトボードに書く。紫もそれをノートに書き込む。
「ですので、できるだけ全ての社員と毎日コミュニケーションを取って下さい」
「つまり、七島社長、瀬々串専務、学習教材担当の河浦さん、営業担当の尾辻さん、取材班の猿渡さん・牧本さん・稲森さん、編集班の大畑さん・柿本さんの全員と毎日会話するということですね」
「そうです。この会社は十人しかいないので、お互いに協力しないと会社が成り立たないので、お互いに何をしているかどうかきちんと知っておくようにしています。特に取材班は取材内容によっては直行直帰することも多いので、会社に来た時は必ず声をかけるようにして下さいね。また、社内には全員の動きが一目で分かるように動静ボードに書き込むことになっていますので、それを随時確認しましょう」
「分かりました」
そこまで説明すると、井出は研修室を出るように誘ったので、紫はそれに従う。事務室を見ると、本日の一日の動静表と、今週の動静表の二種類が掲示してあり、それに書き込むようになっている。確かに他の人はきちんと書き込みしているのに、紫は本日の昼の研修以外に何も書き込みをしていない。
「桜田さんもきちんと書き込みをして下さいね。そして、会社にいる時は、在社マグネットを必ず張りましょう。そうしないと、他の人が桜田さんと連絡を取りたい時に連絡がうまく取れなくなりますので…」
「すみませんでした…」
「いいんですよ。大きい会社だとこう言うの、あまりやらないでしょう? 私もエスペランサからの出向だったからね。本当は三年で東京に戻る予定だったけど、福岡がすっかり気に入ってしまってね…。しかも、こっちで結婚しましたので、今では完全に福岡県民ですよ」
「ええっ、本当ですか!」
思わず、大きい声を出してしまった。井出がエスペランサ出版からの出向組だったとは…。今回が初めてと思っていたが、実は二回目だったなんて…。
「もしかして、今回と同じ状況ですか?」
「まあ、リストラであることは違いますけど…。それ以外は同じですね。前任の総務主任が定年を迎えるのに、代わりが見つけられずに即戦力を求めている所とか同じですね。まあ、今から三〇年程前の話ですけどね…」
「へえ、そうなんですね…」
紫は三十年前にもそんなことがあったことを、この時初めて知った。どうやら、歴史は繰り返すらしい…。




