4月4日(水) け2
「もちろんです。だから、営業販売に力を入れて、月刊HAKATAの販売部数を伸ばさなくてはいけません。九州新幹線が全線開業してから、熊本や鹿児島から福岡に買い物や演劇などを見に来る人は増えています。そこで、熊本や鹿児島での販路拡大をするために営業販売にお金をかけるのです。これからは情報誌も県の壁を超えていかないと、販売部数は減っていく一方ですからね…」
なるほど…。エスペランサ出版も同じような問題を抱えているはずだが、首都圏は九州に比べて人口が多い事に甘えているような気がする。こちらは人口も少なく、会社の規模も小さいのでのんびりと構えていられない。
「ここまでいいですか?」
「はい…」
「そしたら、次に行きますよ」
『雑誌の売り上げが増えたら制作部門の予算を増やし、売り上げが減ったら制作部門の予算を減らす』
これも当然であるが、大きい会社だとなあなあで終わってしまう事も多い。雑誌の売り上げが伸びていると言う事は制作部門がいい記事を書いていると言う事である。しかし、そうでなければ、記事が時代のニーズにあっていない。
「しかし、お金をかければ、必ずしも時代のニーズにあったいい記事が書けるとも限りません。一番いいのは、最小限の取材制作費で、最大限の部数が出る事です。そこで、雑誌の売れ行きが好調な時は報奨金で報いることが最近は多いですね…」
確かにそうである。取材制作費にお金をかけるよりも、その方が費用対効果は大きい。最近の出版業界の傾向であると井出が教えてくれた。
紫にとっては知らない事ばかりである。エスペランサ出版では社会保険事務しか扱っていなかったから仕方ない。実際に一人で総務の仕事をこなすには、いろいろと知らなければいけないのである。
『よい業績には報奨金や賞与で報いよ。ベアは原則上げない』
またしても、井出がホワイトボードに書き込む。紫はそれをせっせとノートに書き込む。
「かつて情報誌が飛ぶように売れた時代がありました。日本中が活気に満ちて、経済が常に右肩上がりの時代がね…。しかし、今は失われた時代がずっと続いていますし、ネット社会になってから情報がスマホで検索できる時代です。これからは情報誌を販売するのに、厳しい時代がずっと続きます。そんな時代によい業績に対して、ベアで報いるのは大変危険です。なので、報奨金や賞与で報いるのです」
紫にとって、井出の特別講義はちょうどいいフォローアップ研修だ。出版社の事務を長い事やっているのに知らない事ばかりで戸惑いはかくせないが…。しかし、出版業界のおかれている状況とか、それに伴う予算編成など勉強になる事ばかりである。




