4月4日(水) け1
「桜田さん、初めての予算承認会議はどうでしたか?」
「今回はすでに枠組みとか決まっていて、最終段階の承認だけでしたので、会議自体は二十分ほどで終わりましたが、とても長く感じられました。」
水曜の午後、前総務主任であり、現在は社外顧問である井出が出勤してきた。この日は紫が総務主任になってから、初めての打ち合わせであったが、打ち合わせる内容はすでに決まっていた。
着任初日にいきなり出席させられた予算承認会議についてである。これについて、改めて井出から説明を受ける事となった。
「そうですか。今年度は私が予算案を立てて、それぞれの部署との折衝をしましたけど…。来年からは桜田さんが一人でやらないといけないのですよ」
思わず、無言になってしまう。小さな会社の総務を引き受けると言う事はそう言う事だと分かっていたが、いざ実際にやるとなると気が重い。エスペランサ出版にいた時は予算編成なんか、一度も関わった事はない。そんなことは上層部の仕事だと思っていたのに…。
「今から、今年度の予算を元に、予算案を組み立てるコツとポイントを教えますので、しっかり理解して下さいね」
「かしこまりました」
そう言うと井出はホワイトボードに
『学習教材は打ち出の小槌。販売営業は必要経費だから削れない』
と書いた。紫はそれを二月の事前研究から使っているノートに書き込む。
確かにそうである。ビオランテ出版の最大の特徴は学習教材を扱っている事だ。しかも、収入の半分を学習教材販売から出している。
「言うまでもない事ですが、予算を組むためには、まず収入がどれくらいあるか予測しなくてはいけません。学習教材は生徒数から販売部数がかなり正確に予測できます。雑誌のように売れ行きが月によって変わる事はまずありません。そのため、学習教材を扱っていると言う事は予算編成上においては大変有利です」
「井出さん、それはよく分かりますが、少子化の時代において学習教材販売のみにしがみつくのは危険ではないでしょうか?」
紫は思った事をそのまま聞いた。分からない事があったら、そのままにせず、すぐに聞く事と厳命されている。こうやって聞く事ができるのが週に一回しかないので、うやむやにすると紫が困る事になる。




