7.ノッカー・アップ――フィンの仕事
「――と、いうわけで、領主様……お父上がとても心配しています」
ノッカー・アップという仕事のこと、クロードさんから依頼を受けたことをざっくりと説明した。ついでにオハヨードリと獏の紹介を改めてしたら、少しだけ興味を持ってくれた様子だった。
「……すみません、こんな不出来な息子のためにお手数をおかけしてしまって」
「アルベルト、何を言うんだ。自分のことを不出来な息子などと……そんなこと言うもんじゃない」
「いえ、父上。わかっています、この家に僕はもう必要ないのでしょう? なのでご迷惑をかけないように眠っていようと思ったのですが、逆にお手を煩わせてしまったみたいで」
「お前は、何を……?」
「あの、アルベルト様」
息子の言葉に動揺を隠せないオズワルドに代わり、フィンが話を進めようと手を挙げ、間に入った。
「その『自分はいらない子』っていうのなんですが、何でそう思ったんですか?」
「え? それは父上が……」
「私はそんなこと言っていないぞ!?」
あたかも当たり前のように告げるアルベルトに、オズワルドが必死に否定する。
まぁ、親子の間で誤解があるのはもうわかっているので、ここは敢えてスルーさせてもらおう。
「お父上が、何を言っていたんです?」
「次の当主はテオドール……弟に任せてもいいかもなって」
「そ、それはだな……っ」
「それは、いつ頃聞いたんですか?」
「僕が深い眠りにつく前だよ。……情けない話だけど、母が弟を産んでからなかなか会えなくなったことが寂しくてね。夜に眠れなくなってしまったんだ」
……睡眠時間が長くなってたんじゃなくて、夜に寝られてないから朝起きられなかったのか。
「それが原因で家庭教師の授業中にもウトウトしてしまうことが増えて……言われたんだ、『そんな調子でしたら弟君に次期当主の座を奪われますぞ』って」
「な!? あいつそんなことを!?」
「それで悲しくなって……つい母上の元へ足が向かってしまったのだけれど」
そこで一度言葉を切ったアルベルトは、悲しそうな、それでいてどこか諦めたような、そんな表情をしていた。
「もし僕に荷が重いようだったら、跡継ぎはテオドールでもいいかもなって父上が。……母上の体調が良くないからって、僕はほとんど会わせてもらえていなかったのに、父上も母上も笑っていて、母上の腕の中にいるテオドールを幸せそうに見つめていて……もう僕は必要ないんだなって思ったんだ」
――あぁ、これは……。
事前にオズワルドの話を聞いていたからこそフィンにはその言葉の真意がわかるが、何も知らずにその台詞だけを聞いてしまったのなら、誤解しても仕方がないだろう。
「それで、意識の中に空間魔法を作れないか夜な夜な試行錯誤して、少しずつ自分で作った世界に沈んでいったんだ。……夢の中は幸せだったよ。この子もずっと隣にいてくれて、寂しさを感じなかったもの」
寝ている間ずっと抱いていたくまのぬいぐるみを撫でながら話すアルベルトはとても儚げで、その容姿も相まってどこか消えてしまいそうな雰囲気を作っている。
ちらっと横を見ると、息子が自分を「いらない子」だと言った原因が、自分が不用意に話したことだと知ったオズワルドがショックを受けたような顔をしていた。
「――領主様。思っていることは、言葉にしないと伝わりませんよ」
「っ、ああ、そうだな」
「あと、今一番傷ついているのはアルベルト様ですので」
「!」
「お二人で、しっかりと話してください」
そう言うとフィンは「では、僕は失礼いたします」と席を立つ。
「え、帰ってしまうのかい?」
「ええ、僕の仕事は『起こすこと』なので。あとは……親子の対話があれば、きっと大丈夫だと思いますよ」
「ああ、きちんと話さなければね。今日は本当にありがとう」
「いいえ。――アルベルト様」
そして、オズワルドとフィンの会話を聞きながら、自分の立ち位置がわからない子供のように視線を彷徨わせていたアルベルトに声をかけた。
「な、何?」
突然声をかけられ驚くアルベルトを見据え、言葉を紡ぐ。
「今、あなたの周りにあるものは決して“当たり前”ではありません。ご自身の感傷に浸るよりも、傍にある温もりに手を伸ばし、大切にしてください」
「え? どういうこと……?」
「……お父上の話を、ちゃんと聞いてあげてくださいね」
アルベルトの問いには答えず、微笑みと共に言葉を締めた。
「今日はご依頼くださり、ありがとうございました。また御用がある時はいつでも呼んでくださいね」
最後に、ニコッと笑い。クロードに誘導されるまま、アルベルトの寝室を後にした。――もう呼ばれることはないだろうな、と思いながら。
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