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ノッカー・アップ――朝を運ぶ少年  作者:


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6.領主子息――アルベルト・ローゼンフェルトの目覚め

 ――今日も朝が来たよ。朝を運んでくれる太陽の光に感謝しよう。大切な人が待ってるよ。君が目覚めるのを、君の笑顔を。話をしよう? 君の声で、君のことを教えて。今日は僕が来たよ。ハリボテの幸せよりも優しい温もりがあることを報せに。


 歌声に魔力を込めて、アルベルトに届くように歌う。すると、力が抜けたように表情が穏やかになり、ゆっくりと瞼が上がった。アッシュブラウンの髪と同じ色の瞳と目が合う。

 ――綺麗な子だなぁ。

 寝顔でも端正な容姿をしているのはわかっていたが、瞳を見るとその儚さが際立ち、思わず見入ってしまった。


「だ、だれ!? 何でここにいるの!?」

「あ、僕は……」

「アルベルト!!!」


 アルベルトが驚きのままに起き上がる。フィンが咄嗟に反応できずにいると、後ろで見守っていたオズワルドがフィンを跳ね除け、アルベルトを抱きしめた。


「アルベルト……っ本当に良かった……!」

「え、父上? どうしたんですか? 一体何が……っ」

「アルベルト!? どうした!? おい、クロード! クロードはいるか!? すぐに医者を……っ」


 十日間眠り続け、弱った身体。

 見知らぬ人間がいた驚きに加え、父の大きな声と強い抱擁。

 ――そりゃあ、耐えられないよね。

 せっかく目を覚ましたアルベルトは、自分の状況を理解する間もないまま、今度は気を失ってしまったのだった。



 *

「絶対安静ですよ」

「……はい」

「ご子息は今、衰弱状態にあります。まずは水分補給。食事はとろとろにしたパン粥を少しずつ、具材は入れずにね」

「……はい」

「間違っても、大きな声を出したり力強く抱擁したりしないこと」

「……はい、気をつけます」

「では私はこれで。三日後にまた来ます」

「ありがとうございました……」


 あの後、すぐに駆けつけた医者は元々アルベルトを診ていた者だったため、今日の顛末を聞いてオズワルドを一喝した上でアルベルトの様子を確認し、淡々と注意事項を説明して帰っていった。

 オズワルドは、自分が原因で十日ぶりに起きた息子が気を失ったことだけでもショックを受けていたのに、医者に叱られすっかりと意気消沈している。

 自分が「抱きしめてあげてください」なんて言ったせいだろうか――なんて反省が一瞬だけフィンの頭をよぎったが、オズワルドの配慮のなさが一番の原因だ、ということで結論づけ、扉の横で待機していたクロードと並び成り行きを見守っていた。


「アルベルト……すまなかった」


 オズワルドがベッドの横に置いた椅子に座り、眠るアルベルトの頭を撫でていると、「ん……」とアルベルトが目を開けた。


「あれ、父上……?」

「ああ、アルベルト。良かった、目を覚ましてくれて」

「僕は何をして……あ、え、何で起きて……? だめ、夢の中に戻らなきゃ……っ」

「アルベルト、どうしたんだ? せっかく起きてくれたのに……。どうか父様にお顔を見せてくれないか?」

「だめ、です。僕はいらない子なので。僕は、眠り続けているのが一番いいんです」

「いらない子なわけないだろう? 一体何があったんだい? 父様に話してごらん?」


 予想通りの、“目覚め”への強い拒絶。

 イヤイヤする息子に、おどおどする父親……本人たちは至って真面目なんだろうが、傍から見ていたらなかなか滑稽だ。見目のいい貴族親子だから、尚更に。


「おはよーございまーす」


 ただ、いつまでもこの光景を見ていてもキリがないので、挨拶がてらお邪魔させてもらうことにした。手に持ったオハヨードリをアルベルトの耳元に当てながら。


「わ、何!? あ、君はさっきの……」

「おはようございます、アルベルト様。僕はノッカー・アップのフィンと言います。領主様の依頼で、アルベルト様を起こしにきました」

「父上の……? 何で、そんなことを……っ、僕はずっと眠っていたかったのに……っ」


 いきなり声をかけられたことにより一瞬落ち着いていたアルベルトの癇癪が再発しそうになり、フィンはもう一度オハヨードリを通して声をかける。


「すみませーん。せっかく起きてもらったので、もう眠るのはやめにしてもらってもいいですかー」

「っ、またこの鳥! もう、普通に話してよ!」


 どうやらアルベルトはオハヨードリが気に入らないみたいだ。こんなに愛らしいのに。

 仕方がないのでオハヨードリをしまい、直接話をさせてもらう。


「失礼いたしました、アルベルト様。お話、してもらえますか?」

「う、うん。でも話が終わったら僕はまた眠りにつくよ?」

「それは困ります。それに――先ほどまで見ていた夢でしたら、もう見ることはできないと思いますよ?」

「え!? 何で……?」

「僕の獏が美味しくいただいちゃったので」


 へへ、と笑いかけたら酷く怪訝な表情を向けられた。

 ――美少年のこんな表情、なかなか見られないよなぁ……なんて思いながら。クロードさんが用意してくれた椅子に座り、ここまでの経緯を話し始めた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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