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ノッカー・アップ――朝を運ぶ少年  作者:


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5.領主子息――アルベルト・ローゼンフェルトの夢

 ――さて、どうやって起こそうか。と、フィンはアルベルトの寝顔を見ながら考える。

 普通に起こしても起きることはないだろう。

 そもそも、眠り続けているのは本当に心因性のものなのだろうか? キッカケはきっとそれで間違いないんだろうと思う。でも、それにしては……。


「領主様、アルベルト様はどんな魔法が得意でしたか?」

「ん? ああ、そうだな……生活魔法以外の類だと、空間魔法かな」

「空間魔法、ですか?」

「ああ。アルベルトは幼い頃から本が好きでね。色々な本を読んでいたんだが、いつしか本の登場人物達を具現化できるようになったんだ」

「……すみません。ぐげんかっていうのは、どういう……?」


 聞き慣れない単語の意味を尋ねるフィンに、オズワルドは「例えば」と、本棚にある本を一冊取り出して見せた。


「これは森で暮らす小人達の童話なんだが、ここに三角の帽子を被った小人の絵があるだろう? アルベルトはこの小人を、本から飛び出したように実体を持たせられるんだ」

「ええ!? それって……すごいことじゃないですか」

「そうだろう。と、言っても、アルベルトの作り出した“空間”の中に限るがね」

「それでも充分すぎるくらいすごいです! ……そっか、そういう空間魔法ですか」


 フィンは、得意げな顔をしているオズワルドを尻目に、その手にある本の絵を見つめる。

 そして、ふと思った。

 ――“空間”って、夢の中も含まれたりするのかな?

 夢の中の“空間”を、アルベルトが作り出しているのなら。そこには文字通りの『夢』が詰まっているわけで。

 大好きな母に会えない現実世界よりも、自分の好きなものが詰め込まれている夢の世界の方が幸せだろう。

 それが、目覚めることへの拒絶(・・)に繋がっているとしたら――

 

「――よし、まずはやってみよう」


 そう声に出すと、金色の鍵を取り出した。

 

「何だい? その鍵は」

「これは、ノッカー・アップとして持つことを許されている、『強制解錠』の鍵です。僕はいつも窓の外から依頼主様を起こすので、まったく起きない方のために」

「ほう。だが、ここにはその鍵で開けられそうなものはないが……」

「はい。ですが、この鍵でできる『強制解錠』は、鍵穴だけではないんです」

 

 不思議そうに鍵を見つめるオズワルドにわかりやすいように、フィンは魔力を流す。

 すると、鍵の先端が光り――それが四つ足の小さな動物の形に変わった。


「これは……すごいな。ところで、その動物は?」

「この子は(バク)という霊獣です。夢を食べてくれるんですよ」

「夢を……?」

「はい。ノッカー・アップを依頼される方の中には、悪夢にうなされてまともに眠ることができず、朝に起きることができないという方もいます。そういう方にピッタリなのが、この子なんです」


 金色に光る獏を手のひらに載せ指の腹で撫でると、気持ち良さそうに目を閉じる。


「本当に生きているみたいだな……」

「可愛いですよね。ついつい撫でちゃってたら、いつからか反応してくれるようになって」


 へへ、と笑いながらもうひと撫ですると、獏がアルベルトの枕元へとゆっくり飛び降りた。そして口を大きく開けると、何かを吸い込み始める。

 1分ほどその状態が続き、やっと吸い終えたのか獏は満足そうにゲップをしてフィンの元へと戻ってきた。


「お疲れさま。ありがとう」


 労いの言葉をかけながら優しく頭を撫でると、獏はフィンの指に頭を摺り寄せ、光に戻り鍵へと帰っていった。


「……今ので、アルベルトの夢を食べたのか?」

「はい。ただ……」

「ただ……? 何か問題があったのか!?」

「い、いえ。いつもは夢を吸い込む時間なんて長くても数十秒なんです。だけど今回は随分と長かったな、と思って」


 勢いよく食いついてくるオズワルドに圧倒されながらも、フィンは普段の獏の様子を伝える。

 獏の夢吸いの時間は、大体の場合は数秒で終わる。酷い悪夢が習慣化している人の時には数十秒かかってしまうことがあるため、夢自体の密度によってその差があるのだと考えていた。


「なのできっと、この十日間……いえ、半年の間にアルベルト様の夢はどんどん密度が増していったんだと思います」

「そう、なのか……」


 と、その時。唸り声が聞こえアルベルトを見ると、眉間に皺を寄せ苦しそうに涙を流していた。


「フィンくん! アルベルトが……っ」

「……いつもは、夢を獏に食べてもらうことで悪夢から解放されるんですけど……アルベルト様の場合は幸せな夢を食べられてしまったことで、逆に苦しみを感じてしまったのかもしれません」

「そんな……っ、どうすればいいんだ!?」


 息子の苦しむ表情を見て、それ以上に苦しそうな表情を見せる父親――オズワルドを一瞬だけ冷視(れいし)し、フィンは先ほどと同じように「大丈夫ですよ」と微笑む。


「あとは、起こすだけです」


 そう言うとフィンは静かに歌を口ずさんだ――

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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