最後の守護
宮廷の隠し通路を駆け抜ける間も、頭の中はアルフレドのことでいっぱいだった。
剣がぶつかり合う金属音、兵士たちの怒号、そしてアルフレドが私のために剣を振るっているという事実。300年間、森で静かに生きてきた私にとって、こんなにも心臓が締め付けられるような激しい感情は、初めての経験だった。
(私が魔法を使えば、すぐに解決できる。でも、そうすればこの国の人間たちはアルフレドを「魔女を匿った反逆者」として処刑する……!)
私は迷っていた。自分の力を使うか、それともアルフレドの騎士としての誇りにすべてを預けるか。
その時、通路の突き当たりから、凄まじい轟音が響いた。
重厚な大扉が破壊され、そこには血に染まった銀色の鎧を纏ったアルフレドが立っていた。彼は数多の兵をなぎ倒し、ボロボロになりながらも、私を守るためにここまで戻ってきたのだ。
「……フェスティア、無事か」
「アルフレド! なんで、こんな……!」
私は駆け寄った。彼の肩からは鮮血が流れている。私の目から涙がこぼれ、彼の手を汚していく。アルフレドは荒い息をつきながら、歪んだ笑みを浮かべた。
「安心しろ。……あいつらには、君が『魔女の力で姿を消して逃走した』と伝えてある。俺は、君を捕り逃がした無能な師団長として、職を解かれるだけだ」
「そんな……そんなの、あんまりよ! あなたの騎士としての人生を、私のせいで……!」
「いいや。君を守るために動いたこの時間こそ、俺の人生で最も誇らしい時間だ」
アルフレドは、震える手で私の頬を拭った。彼の指先は冷たいけれど、瞳の奥の情熱は、300年の年月をも焼き尽くすほどに熱い。
その時、隠し通路の先から、宰相と王の親衛隊が姿を現した。彼らはアルフレドの裏切りを確信し、冷酷な剣を向けている。
「アルフレド、そこまでだ。反逆者として、ここで処刑する!」
「待って……!」
私が前に出ようとすると、アルフレドが私の腰を抱き寄せ、耳元で静かに囁いた。
「フェスティア、聞いてくれ。君が魔法で世界を変えようとしていたこと、俺は知っていた。……だから、君は君のままでいてくれ。俺の騎士としての最後の任務は、君をこの国から安全な場所へ逃がすことだ」
彼は残った力を振り絞り、自身の剣を地面に突き立てた。瞬間、アルフレドがこれまで培ってきた宮廷内での信頼と、騎士団の仲間たちが彼を慕う心が、一つの「壁」となって私たちを囲い込む。
「……行くんだ! 俺の仲間たちが、出口まで道を作っている!」
それは、彼が一生をかけて積み上げてきた「信頼という名の線」が、最後の最後に魔法のような奇跡を生んだ瞬間だった。
私はアルフレドの胸に顔を埋め、溢れる涙を止められなかった。
彼が自分の寿命を、自分の地位を、自分のすべてを投げ打ってまで守ろうとしたのは、「魔女」という存在ではなく、「フェスティア」という一人の女性だったのだと、痛いほど分かったから。
「……行かないわ、アルフレド」
私は彼の手を強く握りしめ、覚悟を決めた。
もう逃げない。この宮廷の、この汚れた空気の中で、彼と共に生きる。それが私の選ぶ運命だと、自然の理を超えて、今、そう決めた。




