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忍び寄る運命

宮廷という場所は、平穏が長く続けば続くほど、かえって疑念が渦巻くものらしい。


最近、王宮の書庫から古い資料が持ち出されているという噂が流れていた。かつてこの国を建国した王と、その傍らにいたという「伝説の魔女」に関する文献だ。フェスティアという名前、そして私が何年経っても変わらぬ姿で宮廷に留まっていることに、一部の賢い貴族たちが不気味な一致を見出し始めていた。


その日の会議は、いつになく殺伐としていた。

王の側近である宰相が、私の前で不意に一冊の古い書物を叩きつけた。


「フェスティア殿。これに記された魔女の肖像画と、貴女の顔立ちが酷似していることについて、説明をいただきたい」


会議室に沈黙が流れる。アルフレドが私の前へ飛び出した。


「宰相! 根も葉もない噂で……」

「退け、バーンズ! 貴公の独断で下働きをここまで重用した責任は重い。もし彼女が本当に異能の者であれば、国家の安全を脅かす存在だ!」


アルフレドは剣の柄に手をかけ、一歩も引こうとしない。その背中は、震えるほど硬く強張っている。私は彼の後ろから、そっとその背に手を添えた。


「アルフレド、いいのよ」


私は前に出た。魔法を隠す必要なんてない。けれど、ここで私が魔法を使えば、彼らの疑念は確信に変わり、アルフレドの立場まで危うくなる。


「私はただの、宮廷の相談役です。もし、この国を豊かにしたいという願いが異能と見なされるのなら、私はここに留まる資格はないのかもしれませんね」


私の言葉に、王妃様が立ち上がった。

「宰相。彼女を疑うのは、この私を疑うのと同じことよ。彼女が私の心をどれだけ軽くしてくれたか、貴方は知っているの?」


しかし、その場は収まらなかった。宰相は冷酷に言い放つ。

「王妃様、情に流されてはいけません。近衛師団、フェスティアを拘束せよ!」


アルフレドが剣を抜き放つ音と、重苦しい足音が会議室に響く。

この時、宮廷の地下に眠る、かつての魔女伝説を封じていた「古い呪い」のような因習が、人々の心の隙間を縫って動き出そうとしていた。


外は急に嵐の予感に包まれ、宮廷中に不吉な風が吹き抜ける。

私の正体が暴かれれば、平和を愛するこの国の根底が揺らぐ。私のせいだ。私の好奇心が、この穏やかな場所を壊そうとしている。


「……フェスティア、逃げろ」


アルフレドが私の耳元で小さく囁いた。

彼は私を拘束する振りをして、誰もいない隠し通路へと私を押し込む。


「アルフレド? あなたはどうするの!」

「俺は近衛師団長だ。君を守り抜くのが、俺の生涯の任務だと言っただろう」


彼は私の手を取り、最後に一度だけ、私の頬を優しく撫でた。

その瞳には、最初に出会った時の堅物な騎士の影はなく、ただ、守るべきものを守ろうとする一人の男の熱い決意があった。


「絶対に、俺の命が尽きるまで、誰にも君を傷つけさせない」


扉が閉ざされ、私は闇の中に一人取り残された。

宮廷中に響き渡る剣戟の音。私のために、彼が戦っている。

300年ぶりの都会で、私は初めて、自分の「自由」よりも「大切な人の命」を恐れるという、苦しい感情を知った。

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