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王都デートと「点と線」

「フェスティア、たまには『任務』から離れて、市街を視察する必要があるだろう」


ある朝、アルフレドがそんなもっともらしい理由を口にした。彼は少しだけ照れくさそうに顔を逸らしているけれど、その手にはしっかりと王都の見取り図が握られている。


「視察? あなたが、私を?」


「……そうだ。王妃様からの命だ。最近、宮廷内で『フェスティアという不思議な相談役』の噂が広まりすぎている。一度、君に外の空気を吸わせて、噂の熱を冷まさせたいという配慮だ」


もちろん、そんなのは嘘だろう。彼はただ、私が宮廷の中だけで閉じ込められているのを気遣ってくれたのだ。私は嬉しくて、思わず彼の腕に飛びついた。


「嬉しい! それじゃあ、今日はアルフレドが私の王都ガイドね!」


「こ、こら、人前で……!」


赤面するアルフレドを引き連れ、私たちは城門を抜けて王都のメインストリートへと繰り出した。


300年ぶりの王都は、私の知っている場所とはまるで別の国だった。並ぶ建物は立派になり、人々は色とりどりの服を着て、活気に満ち溢れている。

私は子供のように目を輝かせ、あちこちの屋台を覗き込んだ。


「ねえ、アルフレド! あれは何? あのお菓子、生地が膨らんでるわ。魔法の配合なのかしら!」


「……あれは酵母という自然の力だ。魔法ではない」


「じゃあ、あの噴水! お水が虹色に光ってるわ。やっぱり魔法ね?」


「……太陽光の屈折だ。フェスティア、あまり指先を動かすな。魔力が出る」


アルフレドは終始、私の腕を引いたり、背中で周囲の視線を遮ったりと大忙しだった。彼が必死に私の「魔女らしさ」を隠そうとする姿が、おかしくてたまらない。


街外れの時計塔に登ると、王都全体が一望できた。沈みゆく夕日が街並みをオレンジ色に染め上げていく。そのあまりの美しさに、私は思わず立ち止まった。


「……綺麗ね」


隣に並ぶアルフレドを見上げると、彼もまた街を見下ろしていた。その横顔は、いつもよりずっと穏やかだった。


「300年、ずっと森から世界を眺めていたわ。でも、こうして誰かの隣を歩いて、同じ景色を見る……それだけで、世界がこんなに色鮮やかに見えるなんて」


アルフレドは沈黙を守っていたけれど、私の手元にある彼の腕が、ふっと力を緩めて私の手を握り返した。


「……俺もだ」


彼はぶっきらぼうにそう言った。


「君が来てから、世界が変わった。……俺の胃の痛みも、この街の騒音も、君というフィルターを通すと、悪くないものに思える」


その言葉が、私の胸に温かく灯った。

この一日、彼と見た景色、交わした会話、彼が私を守るために見せた必死な顔。それら一つひとつの「点」が、私の心の中で確かな「線」として結ばれていくのを感じる。


帰路につく頃、私たちはもう、最初のような「魔女と騎士」という関係ではなかった。

彼の命が尽きるまでの、ほんの短い期間かもしれないけれど、それでも今の私には、この瞬間こそが永遠よりも価値あるものに思えた。


「ねえ、アルフレド。明日も、また一緒に視察に行きましょう?」


「……勘弁してくれ。俺の胃がもたない」


そう言いながらも、彼は私の手を決して離そうとはしなかった。

王都の夜空に、一つ、また一つと星が瞬き始める。それはまるで、これから私たちが変えていく世界の予兆のように見えた。

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