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秘密の共有者

「アルフレド。……その、胃薬の減りが異常ではないかしら」


私の執務室のドアを叩いたのは、王妃様だった。

アルフレドは慌てて立ち上がり、膝をついて敬礼する。私は慌ててその後ろに隠れたが、王妃様は私の髪の黒さに目を留め、ふわりと柔らかな微笑を浮かべた。


「フェスティア、でしたね。……少し、お顔を見せてくれるかしら?」


王妃様は私のあごを優しく持ち上げると、瞳の奥を覗き込むように見つめた。その瞳は、すべてを許し、すべてを見通すような慈愛に満ちていた。


「あら……。あなた、森の匂いがするわ。それも、300年もの間、人々の涙を雨に変え、笑顔を日差しに変えてきた、あの森の」


心臓が跳ねた。アルフレドが背後で息を呑む気配がする。

彼は私を庇うように一歩前へ出たが、王妃様は静かに手でそれを制した。


「アルフレド。あなたが命をかけてまで隠そうとしている秘密が、これだったのね。この子を、宮廷の権力争いという泥沼から守りたかったのでしょう?」


「……恐れながら、王妃殿下。フェスティアは、ただの……」


「ただの、心優しき魔女よ」


王妃様は私の手をとり、驚くほど温かい手のひらで包み込んだ。


「ここには、窮屈な仮面を被った人間ばかり。そんな中で、この子の『魔法』は……いえ、この子の『純粋さ』は、この国にとってかけがえのない宝物になるわ」


王妃様は私に向き直ると、茶目っ気たっぷりにウィンクをした。


「私のティータイムには、あなたのような話し相手が必要なの。アルフレド、この子を私の侍女兼、相談役として正式に認めてちょうだい。そうすれば、あの『怪しげな下働き』という名目も消えるでしょう?」


「……ッ、それは!」


アルフレドは言葉を失い、それから安堵したように肩の力を抜いた。彼にとって、王妃様という最強の理解者ができたことは、何よりの救いだったようだ。


「ありがとう、ございます……!」


「お礼はいいわ。その代わり、フェスティア。……たまにでいいから、私の心も魔法で軽くしてくれる?」


その日の午後、私は王妃様の私室でお茶をいただいた。

王妃様は、夫である王との複雑な関係や、宮廷の陰湿な駆け引きについて、まるで遠い国の物語のように話してくれた。私はただ聞き役に徹し、時折、彼女の緊張をほぐすために、ティーカップの紅茶に微かな香りの魔法を添えた。


帰り際、アルフレドが廊下で待っていた。

彼は私の顔を見るなり、またいつものぶっきらぼうな表情に戻ったけれど、その耳は少しだけ赤くなっていた。


「……王妃様が味方についたからといって、調子に乗るなよ」


「うふふ、分かってるわ。ねえ、アルフレド。私、ここに来て良かった」


「……何がだ」


「あなたと、王妃様という『秘密の共犯者』ができたから」


アルフレドは呆れたように鼻を鳴らしたけれど、私の肩をそっと抱き寄せ、人通りのない廊下を先導してくれた。


宮廷の重苦しい空気に、ほんの少しだけ春の風が吹いたような気がした。

私の「秘密」は、もう私一人のものではなくなった。そして、この小さな秘密の繋がりが、いつか世界を動かす線になることを、この時の私はまだ知る由もなかった。

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