永遠への記憶
時間は、残酷なまでに平等に流れる。
宮廷に春が訪れ、私たちが守りたかった日常が根付いてから、幾星霜が過ぎた。
王都の風景は様変わりした。古い石造りの回廊には蔦が絡まり、かつて私たちが歩いた庭園は、今では市民に開放された公園となっている。そして、私の隣にいるアルフレドの髪には、かつての銀色が混じり、目尻には深い笑い皺が刻まれていた。
「……フェスティア、まだそんなことをしているのか」
アルフレドの声は、年を重ねるごとに穏やかになった。彼は今、杖をつきながらも、私のために椅子の背もたれを引いてくれる。騎士としての現役を退いて久しいが、彼が私に向ける眼差しだけは、あの若き師団長だった頃のまま、熱く、そしてひたむきだ。
私は老いた彼の手に、そっと自分の手を重ねた。魔法で若さを保つことはできる。けれど、私はそうしなかった。彼が老いていく姿を見守り、共にこの時間を歩むことこそが、私にとっての「人生」だったから。
「……ねえ、アルフレド。今日のスープ、美味しくできたわ」
私の手の中にある彼の指は、以前よりも細く、震えていた。その震えを感じるたびに、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。終わりが近づいていることを、私の魔女としての本能が告げていた。
その夜、アルフレドは静かに、夢を見るように息を引き取った。
争いに満ちた宮廷を変え、私という存在を守り抜き、最後は穏やかな寝室で、私の名前を呼びながら。
「……フェスティア。君と過ごせて、俺は、本当に……幸せだった」
「ええ、私もよ。アルフレド、私もよ……!」
私は彼を抱きしめた。
300年を生きた魔女が、初めて流す「別れの涙」。それはどんな魔法よりも熱く、重いものだった。
彼は死んだ。ただの人間の寿命を全うして。
かつて私が森で感じていた「退屈な永遠」なんて、どこにもなかった。
彼が私に残してくれたのは、終わりがあるからこそ輝く、あまりにも眩しい「愛の記憶」という名の宝物だった。
葬儀の日、王都は悲しみに包まれた。かつて彼が守り抜いた宮廷の人々、そして彼が愛した市民たちが、彼との別れを惜しんで列をなした。
私は人目もはばからず、彼が眠る棺の前で泣き崩れた。それは、彼が守りたかった「人間としてのフェスティア」が、心からの悲しみを感じているという証明でもあった。
「ありがとう、アルフレド。……私の人生を、色鮮やかなものにしてくれて」
彼の棺に、私は森の妖精花を一輪供えた。
300年の孤独が、たった一つの愛によって、永遠の記憶へと塗り替えられた瞬間だった。
窓の外からは、彼が愛したこの国の、変わらず穏やかな風が吹き込んでいた。
私は涙を拭うと、真っ直ぐに顔を上げた。
もう泣かない。彼が教えてくれた「生きる強さ」を胸に、私は次の時代を歩んでいく。それが、私の彼への最後の、そして最大の恩返しだから。




