変化の結実
アルフレドの復帰は、宮廷に劇的な変容をもたらした。
彼は「魔女を匿い、反乱分子を鎮圧した英雄」として、王から異例の恩赦と昇進を言い渡されたのだ。かつての宰相一派が失脚し、アルフレドを中心とした新しい体制が整い始めたことで、宮廷の空気は劇的に変わった。
かつての重苦しく、誰もが互いの喉元に刃を突きつけるような緊張感は消え、代わりに「対話」と「理性」が重んじられるようになった。
「これを見ろ、フェスティア。……以前なら、こんな書類を通すだけで数日かかったんだ」
アルフレドは、かつて胃薬が手放せなかった執務机で、今では晴れやかな顔で書類を捌いている。彼の背後に立つ私は、魔法で淹れた温かいハーブティーを机に置いた。
「あら、良かったじゃない。やっぱり、窓を開けるのはいいことよ」
「ああ。……君の言う通りだった。風通しを良くすれば、皆も自分の中にある『誠実さ』を取り戻すんだな」
宮廷の人々は、私を「魔女」としてではなく、「この国に春を連れてきた女性」として受け入れるようになった。王妃様と私が開くお茶会には、かつて私を冷ややかに見ていた貴族の婦人たちも進んで参加し、庭園の花の手入れを教わりに来るようになった。
ある日の午後、アルフレドと一緒に庭園を歩いていると、若い近衛兵たちが談笑している姿が見えた。彼らは以前よりもずっと柔らかい表情で、お互いの剣技を教え合っている。
「ねえ、アルフレド。……この光景、覚えてる?」
「ああ。……以前の俺たちは、いつも誰かを睨みつけていた」
私たちは並んで歩く。アルフレドは時折、立ち止まっては宮廷の壁や回廊を見渡し、心底安堵したような表情を浮かべる。私の魔法が直接世界を変えたのではない。私たちが「ただそこにいて、互いを大切に想う姿」を見せ続けたことで、周囲の人々が自分たちの心の中にある「優しさ」を思い出したのだ。
「私ね、300年前、一人で森にいたときは、世界はなんて冷たいんだろうって思ってたわ。でも、そうじゃなかったのね」
私はアルフレドの腕に寄り添った。彼の鎧越しに伝わる体温が、何よりも確かな現実としてそこにある。
「本当の冷たさは、誰かを愛することを諦めた心の中にしかなかったのよ」
アルフレドは、私の言葉を噛みしめるように、静かに頷いた。
かつては胃薬で持ちこたえていた彼の人生は、今では私という「かけがえのない宝物」を守るという確固たる目的を得て、誰よりも強く、そして豊かになっていた。
私たちは知っている。この平和は永遠ではないかもしれない。それでも、今日という日が、誰かを傷つけるためではなく、誰かと笑い合うために使われるなら、それこそが何よりも美しい「奇跡」なのだと。
宮廷の窓から差し込む陽光が、私たちの歩く道を黄金色に照らしていた。
変化は、すでに結実していた。私たちは、これから先も、この温かな風の中で生きていくのだ。
……たとえ、どれほど長い年月が過ぎようとも。




