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白い部屋と黒い過去  作者: 士ロ田
『酷』暑
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第70話 好意と行為と私と姉

小景こかげは私のことが好きなんだよね?」


 もじもじしながら尋ねてくるお姉ちゃんの顔は赤くなっている。私もられて緊張してくる。


 これで最後だからと思って言ってしまった告白は、当然なかったことにはならなかった。


「……えっと、はい」


 緊張で普段より丁寧な返事をしてしまう。


「一応聞くけど、家族としてってことだけじゃ、ないんだよね?」

「……はい」

「いつから?」

「え?」

「いつから、その、私のこと好きになったの?」


 いつから?そう言われて私は首を傾げる。一体いつからなんだろう?初めから好きだったと言ってしまえば、そんな気もする。


 お姉ちゃんに対する愛情の器があるとして、最初は純粋な姉妹愛で満たされていたはずだった。お姉ちゃんが家を出たことによって、器に執着が注がれ、辻さんの告白によって、器に独占欲が注がれた。


 このグラデーションのどこからが「好き」なのか、私にも分からなかった。


「分からない。いつからお姉ちゃんとして好きってだけじゃなくなったのか。でも、辻さんの告白くらいから、お姉ちゃんが誰かと付き合うことにはもやもやしてた」

「そのころにはもう、私のこと好きだった気がするけどね」

「え?なんで?」


 私はぽかんと口を開けた。お姉ちゃんと一緒にバドミントンをした日、確かに私は「告白断ってくれないかな」って言ったけど、その理由までは言ってなかった気がするんだけど。


「小景は焦ってたから覚えてないかもしれないけど、私のことが好きって分かるくらいのことは言ってたよ」

「ぐ、具体的には?」

「『お姉ちゃんが男の子と付き合うなら、受け入れられるけど、女の子と付き合うなら、私も諦めがつかない』みたいなこと」


 過去の私はどうやらかなりのおっちょこちょいらしい。おかげで今の私が恥ずかしい目に遭っている。許せない。


「私、そんなことまで口に出てたんだ。確かに、そのころにはもう好きだったかも」

「まぁ、いつからかとかはもういっか。私たちがほんとに話し合わなくちゃいけないことはそこじゃない」

「……そう、だね」


 私たちが今、話すべきことはこれまでの話じゃなくて、これからの話だ。


「まず、私があおいちゃんの告白を断った理由は分かるよね?」

「……うん。分かるよ。お姉ちゃんは辻さんに、私の父親のことを言ったんだよね」


 この瞬間まで、確信はしてなかった。でも、お姉ちゃんが私に分かるよねって言った。ということは、私がお姉ちゃんの家でした、辻さんが私に怒っていた理由に関する推測は、合っていたってことだと思う。


「そう。葵ちゃんにはひどいことしちゃったな。諦めてもらうためとはいえ、こんな家庭の事情なんて聞きたくないよね」

「それは、ふたりが真剣に向き合った結果だから仕方ないんじゃない?」

「そういうことにしておこうかな」


 分かりやすく話が切れた。ここからが本命なんだ。私はぐっと気を引き締める。


「それで、付き合うって話なんだけど……小景は、どこまでを私に求めるの?」

「どこまでって?」

「私は葵ちゃんの告白を断ったとき、こう言ったの。『私ね、義理の父親に乱暴されてたの。だから、もうそういうことをしたくない』って。本来なら関係を進展させるはずの行為に対するトラウマを、私はまだ克服できてない。だから葵ちゃんを振ったし、これからも誰とも付き合うつもりがなかった。だから小景の好意を知ったときも、ゆっくりと距離を取って、小景から私の存在を薄めようとした」

「勉強が忙しいから時間が取れないって、ことあるごとに優里先輩が言ってたのも、お姉ちゃんの計画だったの?」

「そう」


 ん?それって――


「それって、お姉ちゃんのために距離を取ろうとしたの?それとも私のため?」


 その質問にお姉ちゃんは固まった。そう、結局お姉ちゃんも私と同じだった。私のためだって、勝手に私の気持ちをお姉ちゃんが正しいと思う方向に導こうとしていた。


「ふふっ、お互い様だったんだね」

「……そうだね、私も勝手に決めつけてた。ごめん」

「ううん。いいよ。寂しい思いはしたけど、私を思ってくれてたんだもんね。さっきも言ったけど、お互い様ってことにしよ?それより、私から言いたいことがあるんだけど」

「何?」

「私はね……その……えっちなことだけが恋人らしさじゃないと思うんだ」

「それは私も分かってるよ。でも、いずれ問題になることでもある」

「それだよ、お姉ちゃん」

「……それって?」

「私たちまだ、高校生だよ?先のことなんて分からない。私は今、手を繋ぐだけでも嬉しいよ」


 私の意見は問題を先延ばしにしているだけの屁理屈なのかもしれない。でも、私たちの関係は学校だけでは終わらない。この先もずっと続いていく。続けていきたい。


「でも……」

「確かに、そのうち『もっと』が欲しくなるかもしれない。そしたらそのときに考えようよ。そのときのふたりで出した答えだったら、どんな結果になっても、きっと受け入れられると思うから。だから」


 一緒に背負いたい。一緒に歩みたい。それを叶えるだけなら、姉妹という関係のままでもよかったのかもしれない。でも私は、お姉ちゃんのことが好きだって気が付いてしまった。だから私は、お姉ちゃんに求める。姉妹愛ではない、新しい愛の形を。


「私と付き合おう」

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