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第7話 ファミレスに妹と私

 普段は優里ゆうりと来ているファミレスに今日は小景こかげと来ていた。注文が決まってから店員を呼ぶタイプの店で、席への案内だけ済ませ去ろうとする店員に私はいつものチーズケーキとドリンクバーを注文した。小景は慌ててメニューを少し見た後に私と同じものを注文していた。小景がこのお店に来るのは今日が初めてだとわかっていたのに私は暗に急かした。


「じゃ、じゃあさきに飲みも――」

「ねぇ」


 席を立とうとする小景の言葉を遮った。小景には悪いけどもう逃がしてあげられない。


「昨日のことちゃんと話してね」

「……うん、わかった。でも先に1ついい?」

「うん」


 私が頷くと、小景がゆっくりと息を整えて私をまっすぐ見つめた。


「改めて、昨日はごめんなさい。私はお姉ちゃんに怖い思いさせちゃった。私だけ1人で盛り上がっちゃって、何も知らないお姉ちゃんは全部が怖かったよね。ごめんなさい」


 私は「大丈夫、気にしないで」とは言えない。正直怖かったから。私は黙って次の言葉を待つことにした。


「昨日のあれは、正直私にもあまりよくわかってなくて、友達がね、教えてくれたの。『白い部屋』っていう噂があるって」

「白い部屋?」

「そう、白百合神社って知ってる?学校の裏手にあるんだけど、そこに461円お賽銭入れて相手のことを思ってお参りする。そうしたらふたりは真っ白な部屋に連れていかれる。っていう噂話」

「そ、そんなバカな――」


 そんなバカな話があるわけない。そう口に出しかけたが、言葉が止まる。だって私たち姉妹は実際にそれを経験している。


「私もあり得ないって思った。でも本当だった」


 ここまでの話を整理しながら私は新しく浮かんだ疑問を小景に投げかける。


「ん?じゃあ小景は私を思いながらお参りしたってこと?」


 今までの話に嘘がないのならそういうことになる。小景は嫌っていたはずの私を思って461円もその怪しい神社に放り込んだってことだ。


 小景は少し耳を赤くして頷いた後、言葉を続ける。


美華みかから最初に聞いたときはそんなのありえないって否定するために神社に行った――――ごめん今のウソ。お姉ちゃんと話すチャンスが欲しかった。噂が本当だったらいいなって思って試した。だって、この前までの状態だったらもう私からお姉ちゃんに話しかけられないと思ってたから。その、夢の中なら大胆になれるかなって」


 まだ話が見えてこない。小景は私を憎むなり嫌うなりしていたんじゃなかったの?それなのになんで夢で会う必要が、大胆になる必要があるのか。一向に答えにたどり着かない私は、小景にその答えを求める。


「小景は私を嫌いになったんじゃなかったの?入学してすぐに会いに行ったときの態度で完全に嫌われてると思ってたんだけど」

「嫌いになんてなってないよ。でも怒ってはいた。だって、急に『高校生になるから一人暮らしするんだ』って言っていなくなっちゃうんだもん。最初は月に1回でも帰ってきてくれると思ってたのに。2年間で0回。連絡もくれなかった。進学先を知ったのだっておばあちゃん経由だったんだから」

「……」

「ごめん、今はこっちが怒る番じゃなかった。……話を戻すと、あのときの私はお姉ちゃんにびっくりさせようって思ったの。それでおばあちゃんがお姉ちゃんに怒ったりするときにしてたことを真似したの」


 おばあちゃんがしていたこと。小さいころを思い出す。あまり怒らないおばあちゃんだったけど、私たちが危ないことをするとちゃんと叱ってくれていた。


()()、やめなさい。怪我するわよ」


 普段私のことを「ひなちゃん」と呼んでいる私のおばあちゃんは真剣に叱るときは名前で私のことを呼ぶ。それが怖くもあって温かくもあった。そしてあの時の小景を思い出す。


「……2年もほったらかしにしておいて今更何の用?()()


 点と点が繋がった。てっきり私は完全に絶縁状態だから「お姉ちゃん」から「日向」呼びに降格したものだと思っていたけれど、小景なりの「怒っています」のアピールだったのか。


「なるほど、だから日向……」

「そう!それなのにお姉ちゃんには伝わらないし、お姉ちゃんは帰っちゃうし。呼び止めようとしたけどもういないし。私も私で引っ込みつかなくなっちゃうし……。誕生日は会いに来てくれるかなってちょっと期待してた。私が突っぱねておいてあれだけど。」


 誕生日、5月8日。忘れるはずない。もう過ぎてしまっているけど。


「今思えばそれが決め手だったのかも、このまま一生会えないのかもって考えたら辛いし寂しかった。神社で手を合わせながらお姉ちゃんのこと考えてたらもう噂とかどうでもよくなっちゃってて、明日直接話に行こうって気分になってた。でも噂は本当だった」

「それであの部屋で夢のフリをしたんだね」

「うん、私が昔みたいにすれば、『これは夢だな』ってお姉ちゃん思うかなって。それで『どうせ夢なら』って私の質問に答えてくれるかなって。でもお姉ちゃんは言わなかった。だからちょっとイジワルしようって思ったの。夢だってことを利用してちょっとえっちなことをすれば、明日私を見たときに照れてくれるかなって。でも……」

「……」

「ねえ、やっぱり何があったのかは話してくれないの?」


 小景の健気な問いかけを前にしても私の答えは変わらない。迷いなく私は答える。


「うん、私から話すことはないよ」

「……そっか、じゃあ私からはもう聞かない。でも知りたくなくなったわけじゃない。でもこの話は一旦おしまい。」


 悲しそうな小景に胸が締め付けられる。私がそうさせているというのに。小景は一呼吸おいたあと気持ちを切り替えた様子で話を続けた。


「じゃあこっちは質問じゃなくてお願い。また仲良くしよ?」

「そっちは問題ないよ。というか私たちはそもそも仲悪くなってなかったみたいだし」

「そうだったね、じゃあ早速――」


 そう言って小景の顔はわざとらしく険しくなった。


「連絡先教えて!出て行ってからスマホ変えたでしょ!こっちから一切連絡できなかったんだから!」


 わざとらしくむくれる小景に申し訳なく思いつつも、新しい日常の始まりに思わず笑みがこぼれた。

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