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第6話 放課後に私と姉

 放課後、私は急いで教室を駆け出した。待ち合わせ場所を決め損ねていたから。向かう先は3年の教室、お姉ちゃんは待ってくれているだろうか?朝とは別の緊張感を抱えながら3年の教室の前に着いた。


「すみません!林 日向ひなたはいますか?」


 朝と同様に教室中の視線が私に集まる。私は教室を目で一周する。いない。入れ違いになってしまったのかな?そうだったらどうしよう。ぐるぐる考えている私に、朝と同じ先輩が声をかけてくれた。


「日向なら先に校門に向かったわよ。あんたたち場所決めてなかったでしょ。連絡先くらい交換しときなさいよ」


 朝と違って口調がかなり砕けているというか余所行きでないというか、とにかく雑になっている。おそらく私たちのために掲示板役を買って出てくれたんだろう。優しい先輩だ。


「ありがとうございます先輩!」


 そう言って踵を返しかけたが、せっかくお姉ちゃんの友達に接近できそうなチャンスだということに気が付き、朝の美華みかとの会話を思い出し、慌てて振り返る。


「そうだ!折角だし、先輩の連絡先も貰っていいですか?お姉ちゃんの友達なんですよね?」

「はぁ?あんたねぇ、人のスペースにずかずかと踏み込みすぎよ。気を付けた方がいいわよ」


 その言葉に思い当たる節がありすぎて肩を落とした。確かに事態がいい方向に向かい始めていたからって調子に乗ってしまった。などと私が一人反省会を開いていると今度は先輩が口を開く。


「ほら……、あれよ。あんたはまず日向との仲直りを優先しなさい。それができたらまた来ればいいわ。そんとき覚えてたら連絡先くらいあげるわよ」


 私にまで世話を焼いているこの先輩はきっと、お姉ちゃんをすごく大切に思ってくれているから、その思いの延長で私にまで優しくしてくれている。そんな人を利用しようとしていた。これじゃこの前と同じだ。


「ありがとうございます。じゃあまた来ますね先輩!」


 私は謝罪と感謝の意味を込めて頭を下げてから3年の教室を後にした。


 ◇ ◇ ◇


 下駄箱を出た私の視線の先にはお姉ちゃんが映っていた。校門前で少し落ち着かない様子ですれ違う生徒の顔を確認していた。私は履きかけのローファーのつま先で地面を蹴って靴に足を押し込みながら駆け出した。


「お姉ちゃん!お待たせ」


 まだ少し遠い位置から大きな声でお姉ちゃんを呼んだ。周りの視線が集まる中、お姉ちゃんは恥ずかしそうに小さく手を振っていた。


「じゃあいこっか」


 ふたり並んで歩き出した。なんとなく歩き始めたが、目的地を決めていなかったことに今になって気づいた。とりあえずお姉ちゃんについていきながら確認する。


「そういえばお姉ちゃんどこ行くか決めてるの?」


 私は何をすればいいかばっかり考えていて、どこに行くかに全く意識が向いていなかった。普段は部活のあとスクールバスに乗って寮に直行するばっかりだったからこの周辺を歩くことすらない。だから仮に「どこか行きたいとこある?」って言われても特に思い浮かばない。


「うん、近くのファミレスに行こうかなって。」

「そっか」


 助かった。さすがお姉ちゃんだ。


「あぁお金なら気にしないで。私バイトしてるんだ。おばあちゃんの仕送りに頼りっきりじゃいけないからね」


 おばあちゃんから仕送り、初めて知った。パパでもママでもなくおばあちゃんからなんだ。うちとの連絡の絶ちっぷりを考えたら想像に難くないけど、それでもちょっともやもやする。心の引っかかりを跳ねのけるように元気に続けた。


「大丈夫だよ!私だってお年玉いっぱい貯めてたんだから!それはもう大富豪」

「ふふっ、なにそれ。いいのいいのっ。今日は奢られなって!」

「あ、ありがと」


 なんだかその余裕に大人っぽさを感じてどきどきしてしまう。違う違う、どきどきしたりもやもやしてる場合じゃない。何気ない会話のキャッチボールを楽しんじゃってたけど、私にはこの後多くのことを話さなきゃいけない。気持ちをちゃんと切り替えなきゃ。首を左右に振って気持ちをリセットする。


「……」

 

 とはいえ、まだお姉ちゃんと日常会話をするのも気まずくて、周りの景色に逃げる。私にとっては物珍しい下校風景。部活がない生徒がゆるく並んで駅までの最短ルートを辿っている。この近辺に住んでいると思しき人や寄り道をする人がその列から少しずつ横にそれていく。私たちもそれに倣って横道にそれる。前を歩いている人は少しはしゃいで暑くなったのか学ランの上を脇に抱えていた。


 今年の5月は、思ったより朝が寒いのに、少し動くと汗をかくくらいには昼は暑い。私もまだ着こなしが安定しなくて困ってる。――ん?5月?もうすぐテスト?まぁ、今は一旦忘れよう。


 逃げた先からまた逃げてきたころ。お姉ちゃんが目的地を見つけ、指をさしながら私に話しかける。


「ほら、見えてきた。小景こかげはずっと寮生活だよね。来るの初めてでしょ?この時期はうちの生徒が特に多いけど、今日は大丈夫そうだね」

「この時期?」

「うん、1学期の中間テスト前」


 現実にもテストの話題が出てしまった。テストからはどうやったって逃げられないらしい。げんなりしながら入店すると、店員が近づいてきた。


「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「ふたりで」

「2名様ですね。お席にご案内します」


 案内された先の席にふたりで座る。緊張が高まってきた。


「ご注文が決まりましたらお声がけください」

「あ、先に注文してもいいですか?」

「はい、かしこまりました」

「小景はなに頼む?私はドリンクバーとチーズケーキにしようかな」

「じゃ、じゃあ同じものを」

「かしこまりました。チーズケーキ2つとドリンクバー2つですね。ドリンクバーはセルフサービスとなっております。ごゆっくり」

「じゃ、じゃあ先に飲みも――」

「ねぇ」


 ドリンクバーに逃げるために腰を上げた私をお姉ちゃんは呼び止めた。もう逃げ場はない。観念して腰を落とす。私は心臓の音をすぐ近くに感じながら次の言葉を待った。


「昨日のことちゃんと話してね」

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