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白い部屋と黒い過去  作者: 士ロ田
『酷』暑
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第68話 作戦と調査と優里と私

 小景こかげが家を出て行って最初に感じたのは怒りだった。


 小景は何も分かってくれていなかった。私があの両親と小景を今も重ねているのなら、今までの付き合いは成立していない。


 小景は「一緒に傷つかせて」と言っていたのに、自分ひとりで傷ついて、私をその傷から遠ざけようとしている。


 LINEのメッセージも通話も当然無視された。優里ゆうり美華みかちゃんにお願いして声をかけてもらったけど結果は一緒だった。


 私のボルテージは上がり続けていた。このまますれ違ったまま終われるわけがない。


 私の意見を聞いたうえで縁を切るというのなら、悲しいけど諦めはつく。でも、今みたいに勝手に分かった気になって私を拒絶するのは許せなかった。


 とはいえ、連絡がつかない相手とどうやって対話をすればいいのか、という疑問はすぐに解決した。あるじゃないか。私と小景の関係が再び動き出すきっかけとなったあのおまじないが。


 そうと決まれば早かった。私は優里に大まかな事情を伝えて、さっそく白百合神社にお参りした。


◇ ◇ ◇


「おはよう、優里」


 目を覚ました優里は、呆れたような表情で私を見ていた。


「おはよう、日向。本当にやるのね?」

「うん。優里にも少し付き合ってもらいたいんだけど、いい?」

「いいわよ。せっかくの夏休みだし、思い出のひとつくらい作っておかないと」

「じゃあ早速、この場所について知ってること教えて」


 私は優里がこの場所についてノートにまとめていたことを知っている。それが原因で喧嘩もしたわけだし。


「そう言うと思って。ほら、持ってきたわ。この場所はね、寝るときに身に着けているものなら持ってくることができる。それもノートに書いてあるわ」


 優里がパジャマの下から取り出したノートを受け取る。


「……温かい」

「っ!そんなこと言うなら返して!」

「ごめんごめん。冗談だって」

「……意外と元気なのね?」

「だけどすごく怒ってる」

「全容はそのうち聞いていいの?」

「う~ん、こうなったら話しちゃってもいい気がするけど、あまり聞きたくないと思うよ」

「そう、じゃあ今、ひとつだけ聞いていい?」

「うん。いいよ」

「こうなったのは父親が原因?」


 どうしてそこまでたどり着いたのかは分からなかったけど、優里には私の血縁について話していない。たぶんこの推測には誤解がある。


「正解。だけどちょっと不正解。まぁ、そこまで分かってるならいっか。私と小景はね、父親が違うんだ」

「……なるほど。全部分かったわ。もう大丈夫よ。ごめんなさい。嫌なこと聞いたわね」

「ううん。私も手伝ってもらってるし」


 私の身の上話はこのくらいにして、本題を進める。


「今、小景は私からの連絡を全部絶ってる。だから私はここを使うしかないんだけど、その前にいろいろ調べておきたかった」

「使う側になって気が付いたことはある?」


 私は優里が今座っている椅子を指しながら答えた。


「例えば、ここに呼ばれた側は、その椅子に座ることになるみたい。呼んだ私はベッドで目が覚めたから」

「なるほど、確かにいつも小景は今の日向みたいにベッドに腰かけてたわね」

「他には、私と優里が起きるまでにずれがあるみたい。私の方が先に目覚めて、自由な時間がある。これが使う側の特権なんだと思う」

「……なるほどね」

「あとは、明日も手伝ってもらおうと思うんだけど、ここにいられる時間も調べたい」

「私の経験で言えば、だいたい1時間くらいで意識が遠くなって現実に戻されてる」

「なるほど。明日、ストップウォッチ持ち込んでみよう」


 調査が着々と進んでいく。なんかいたずらを計画しているみたいで少しワクワクしてしまう。


「それで?今のところの計画は?」

「このまま小景を無計画にここに呼んでも、話し合いにならないかもしれない。だから手紙を渡そうかと思うんだ」

「それなら仮に1時間無言でも、帰ってから読んでくれればいいってわけね」

「そう、そしたら次の日にでも話ができる状態になってるんじゃないかなって」

「じゃあ、明日はリハーサルだけして、明後日が本番になるのね」

「うん。今日はありがとう。残りの時間は雑談でもしよ!なんだかんだ会うの久しぶりだし」


 今の私が調べられそうなことはもうない。あとは明日の私に任せて、意識が遠のくまで、優里との久しぶりの時間を満喫した。


◇ ◇ ◇


 翌朝。目が覚めた私は青ざめた。優里から貰ったはずのノートがない。


 私は急いで優里にLINEを送った。


「おはよう。そっちにノートある?」

「残念ながら、あるわ。別の作戦が必要みたいね」


 白い部屋で渡したものは、現実で目を覚ますときには持ち込んだ人のもとへ戻るらしい。つまりは、手紙を渡すという作戦は使えないということだった。


「とりあえず、ノートの写真だけ送ってもらっていい?」


 優里から送られてきたノートの写真を見ながらしばらく考え、いい案を思いついたころには、お昼を過ぎていた。


 私は作戦に必要なものを買いに出て、夜に備えた。


◇ ◇ ◇


「おはよう、優里」

「おはよう、日向」

「今回は2つ試したいことがあるの。まずはこれ」


 そう言って私は、目が覚めたときに動かし始めたストップウォッチを優里に見せる。


「もう1つは?」

「もう1つは、これ」


 私は後ろに隠していた結束バンドを掲げる。


「優里の指を2、3本縛っていい?」

「いいわよ。ほら」


 何のためらいもなく差し出された優里の右手を取って、薬指と小指をバンドで緩く縛った。大人しく縛られた優里は、その右手を見ながら私に尋ねる。


「それで、新しい作戦って?」

「それは、ちょっと言えないかな」

「なんでよ?」

「……あんまりいい作戦とは言えないから内緒にさせて?」

「まさか危ないことじゃないわよね?」

「それは大丈夫」

「それならいいわ。それで、この拘束は何を確認したいの?」

「優里が渡してくれたノートは、私が手に持っていても優里のもとに戻っちゃった。ということは、その結束バンドは、翌朝私のもとに戻ってくるはずなの。それを確認したくて」

「……な、なるほどね」


 優里は私のやろうとしていることを察したのか、呆れた表情を浮かべていた。


◇ ◇ ◇


 翌朝。目覚めた私の手には、輪っかになった結束バンドが握られていた。今度は予想通りだった。一応優里にもLINEで確認しておく。


「おはよう、右手大丈夫?」

「ええ、結束バンドはなくなってたわ。ストップウォッチは?」


 言われて確認してみると、ストップウォッチの表示は4時間を超えていた。現実に帰ってきてから結構時間が経っている。意識を失う直前に見ていたときは、優里の体感通り、1時間になろうかといったところだった。


「4時間くらいになってる。こっちに帰ってきても動いてるみたい」

「なるほどね。まぁ、頑張って」

「優里、本当にありがとう」


 珍しく優里は、スタンプで返事をしてきた。照れてるのかな?


 とにかく、これで準備が整った。その日の残りは、作戦に見落としがないかをずっと考えながら過ごした。


◇ ◇ ◇


 白い部屋で目が覚めた。手には結束バンドと縄。そして椅子には――


「小景」


 さて、小景が目を覚ます前に準備を進めないと。

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