第51話 おばあちゃんの家に妹と私
夏休みが始まった。ここ最近の私は現実から逃げるように勉強に打ち込んでおり、塾に行くお金を用意できないから自宅で勉強をしているのだが、際限なく続けることができてしまう。
もとより、遊ぶお金にも余裕がないため時間が余って仕方がなかった。そのおかげというべきか所為というべきか、ここ数日で夏休みの宿題は早くもゴールが見え始めていた。
「ふぅ」
軽くため息を吐いて、床に寝転がる。優里は今頃塾なんだろうな。そう、優里は夏休みを機に塾に通い始めた。優里の場合、学力向上というよりは過去問対策が中心らしいけど。どのみち私たちの予定はどんどん合わなくなっていく。
私は私で、バイトのシフトを夏休み用に夕方から日中に変えたこともあって、週の半分近くは予定が埋まっている。
ひとりだと時間が余るのに、ふたりだと予定が合わない。このままじゃ、夏休みに優里と遊びに行くのもせいぜい数回になりそうだった。
ピロン
ふいに私の携帯が鳴った。LINEの通知を知らせるその音を頼りに、私は寝転んだまま、頭上のどこかにあるはずのスマホを探す。2、3回床とハイタッチしたあと、スマホにたどり着く。スマホを手にして画面を確認すると、小景からの写真が送られてきていた。
そこには、小景とおばあちゃんが写っていた。背景を見るに撮影場所はおばあちゃんの家だろう。小景は毎年、夏休みに一度はちゃんとおばあちゃんの家に顔を見せに行っている、というのはおばあちゃんから聞いている。なんでおばあちゃんから聞いていたのかというと、おばあちゃんの家でばったり出会ってしまうことを避けるために、小景の来訪予定を横流しして貰っていたから。
私が再び小景と関係を取り戻したことはおばあちゃんに伝えていたので、今回の小景の訪問についての密告がされなかったのだろう。
「おばあちゃんの家行くなら誘ってくれればよかったのに」
驚きのスタンプを添えて送信する。せっかくならふたり揃って顔見せ、なんてのも悪くない気がする。スマホの時計を確認したところ、時間はまだ13時。もう完全にその気になった私は小景にメッセージを続けて送信する。
「私も今から行こうかな、小景は何時までいる予定?」
「私は泊まっていく予定だけど、お姉ちゃんも泊まってく?」
そのメッセージに対して変に緊張してしまうのは、私が小景の気持ちを一方的に知ってしまっているから。とはいえ、おばあちゃんにして貰っていることを考えると、顔見せくらいの孝行はするべきだろう。
「そうしようかな。今から準備して行くから、おばあちゃんに言っておいて」
メッセージを送って、床に張り付いてしまった私の体を頑張って起こす。
「おばあちゃんも楽しみにしてるって!」
小景のメッセージに「了解」のスタンプを送って、荷造りを始めた。
◇ ◇ ◇
「いらっしゃい、ひなちゃん」
「お姉ちゃん、久しぶり~」
おばあちゃんの家に着いた私をおばあちゃんと小景が出迎える。
「おばあちゃんも小景も久しぶり。小景はちゃんと宿題やってる?」
「もちろん!まだ全然!」
「だよね」
「ほら、ひなちゃん。こかげちゃん。ここじゃ暑いでしょうから早く上がっちゃいなさい」
「「は~い」」
おばあちゃんは私のことを、日向を縮めた「ひなちゃん」という愛称で呼ぶ。これは私が小さいとき、ニックネームに特別感を感じていた時期に、おばあちゃんにその呼び方を強制していたときのもので、今はもうすっかり私の愛称として定着している。小景も私のブームに釣られて、ニックネームで呼んでもらおうとしたけど、「こかちゃん」も「かげちゃん」も気に入らなくて、結局「こかげちゃん」のまま今に至る。
「そういえば、おじいちゃんはどこ行ってるの?」
「今日は海の方にひとりでドライブに行っちゃったのよ」
「そうなの!私が来るって聞いてたのに!ひどいおじいちゃん」
おじいちゃんはそういうところがある。大事な用事を忘れてどこかにふらっとでかけるというのは昔からで、運動会をすっぽかされた小学校3年生当時の私は、そのときから何かあればおばあちゃんの側につくことを心に決めたのだった。
おばあちゃんの家は、私の今の家からは1時間弱で行ける距離で、母親が私を身籠って出て行ったときに、2人で住むには少し広いこのマンションに引っ越したらしい。当時のおばあちゃんたちは、私が既におなかの中にいたことを知らなかったらしく、どうせすぐに戻ってくるだろうと1部屋分余裕があるこの場所にしたんだとか。
結局、その1部屋は使われないまま時間が経って、最終的には小さいころの私と小景が泊まりに来たときの寝室になった。
そう、つまりここでは私と小景は同じ部屋で寝ることになるんだ。だから小景の「泊まる」という選択に敏感になっていたわけで、ここなら間違いが起きないとしても、どうしたって意識させられてしまう。
そんな私の心模様を知りもしない小景は、楽しそうに高校での思い出話をおばあちゃんに語っていた。




