第48話 サボりと私と日向
いつもの私の部屋。ただいつもと違うことは、ここに日向がいることと、本来はまだ授業中だということ。
私も日向も初めて学校をサボった。一応先生には、私が体調を崩したから早退するってことにして、日向が私を送り届けてくれているという言い訳をしているけど、あまり意味はないと思う。
弟の学校すら終わっていない時間にふたりで私の部屋にいる。背徳感と非日常感で変な気分になっている。
「優里。よかったのかな?私たち」
私の隣に座っている日向が不安そうに言っている。なんとなくサボるのも面倒で、結果的にサボっていなかった私と違って、日向はしっかり自分を律して過ごしている。だからこうして不安に思うのも頷ける。
「いいわけないでしょ。私たちはサボってるんだから」
でも、サボりはサボりだ。私が巻き込んだとはいえ、日向も今日の授業より大きな不安があったから私についてきたはずだ。この先はもう共犯者として腹を括って貰おう。
「だよねぇ。不安になってきちゃった」
「大丈夫よ。日向は私の仮病に付き合わされたことになってんだから。そもそも私はともかく日向は真面目で通ってんだから、一日くらい大目に見てくれるわよ」
「そういうもんかな」
「そういうもんよ」
適当に誤魔化しながら、考える。正直私も勢いでサボってしまったから、これから日向に何をしてあげればいいのか分からない。ひとまずは一番の問題について触れていくしかない。
「それで、日向は小景とどうなりたいの?」
小景と距離を取ると言っても色々ある。今くらいの距離感を維持したいのか、もう少し距離を取りたいのか、それとも日向の家族くらい完全に絶ってしまいたいのか。
「……分からない」
日向は考えてはいるもののまだ結論が出ないといった様子だ。
「じゃあ一番極端な例からいくわ。日向と両親くらい距離を取りたいの?」
「……っ!」
途端に日向の顔が強張る。私が日向の過去を刺激するよくない言い方をしているというのは自覚がある。でも日向がその表情をみせるのなら、小景に対してはそこまでではないんだろう。とはいえ、私が思っている以上に日向は家族に対して敏感らしい。
「ごめん。聞き方が意地悪だったわ。でも小景をそこまで極端に遠ざけたいわけじゃないってことね。だとしたら今くらいを維持したいってこと?」
私の質問に、日向は少し考えてから答える。
「……たぶん私がどうにかしたいのは距離感じゃないんだと思う。小景が私のことを諦めてくれるのなら、距離は近くても遠くても問題ないと思うんだ。距離を取ろうとしてるのは、小景の日常から私を薄めたかったから」
小景に自分のことを諦めて欲しいと思っている日向に対して、ひとつ疑問が浮かんだ。
「そういえば、日向」
「ん?」
「葵って子の告白を断ったのは、女の子だったから?」
「違うよ。私が葵ちゃんをまだよく知らなかったから」
「……じゃあ結局、友達からってことになったの?」
「……」
日向の顔が曇った。なにか地雷だったか?でも、知らない人から告白されて断る。でも互いを知っていけば、いずれ好きになるかもしれないから、いったんは友達から、というのはあり得る話だと思うし、現に私はそういう流れになったものだと思って、確認のつもりで聞いていた。
「じゃあ、日向は友達にもならなかったの?」
「……分からない」
「どういうこと?」
葵という子が付き合えないならと友達にもならなかった、というなら分かるが、日向の口から語られたこれまでの人物像では、そういうタイプには感じなかった。だとすれば友達から再スタート、という結論になってもおかしくないと思うんだけど。
「私がね、友達からじゃなくて友達までならいいよって言ったの」
友達まで。要するに今後も絶対に付き合わないということ。葵のことを知らないから断ったというのなら、知っていけば付き合う可能性があってもおかしくない。それをこんな風に線引きしたというのなら、線を引く理由は、葵にではなく日向にあるということだ。聞いても日向は答えないだろうが一応聞いてみる。
「言いたくなければ追及しないけど、絶対に付き合わない理由は?」
「言いたくない」
沈黙でもなく明確に拒否された。この話はもう追えないだろう。
でも、これでひとつ分かったことがある。日向が葵を振ったのは日向自身が原因であって、葵のせいでも葵が女の子だからという訳でもないということ。
「もう一度聞くけど、葵って子を振ったのは女の子だったからじゃないの?」
「うん、違うよ」
「じゃあ、女子同士が付き合うっていうのは日向の中でタブーってわけじゃないってこと?」
「ん?まぁ確かにそうってことになる。のかな?」
ここまでいろいろと回り道をして、ようやくこの質問を投げられる。私は一度深呼吸してから日向に問う。
「てことは、小景と付き合ったって別にいいんじゃない?」




