第47話 悩みと私と日向
部室に静寂が流れる。この静寂を作っているのは、私と日向。
私はさっきの質問を思い出す。
「小景とも何かあったの?」
この質問に、日向は首を縦に振っていた。週末、日向と小景はふたりで遊びに出かけている。そこで何かが起きてしまったんだろう。
新しい疑問も生まれた。小景はこのことを、日向ほど重大に受け止めていないのではないか?という疑問。
そう思ったのは、私が昨日白い部屋に呼び出されなかったから。日向にバレているとはいえ、使ったかどうかを知る術がない以上、小景は白い部屋を使い続けるだろう。そして昨日、何か重大なことが起きてしまって、それを小景が重く感じているのなら、私を呼ぶと思う。
小景はある意味では私を信用している。それは、情報源として。鼻が利く警察犬として。それが昨日はなかったとなれば、日向と違って、小景の中で折り合いがついているんじゃないだろうか?
これは私が自分を買いかぶりすぎた推測でしかないが、どのみちこの先は聞いてみないことには分からない。私は静寂を破って日向に問いかける。
「小景も告白のこと知ってたのよね?」
質問というより確認。日向も肯定しながら補足を付け加えていく。
「うん、その子。葵ちゃんって言うんだけどね。葵ちゃんが最初に相談したのが小景だったんだって」
そこからの日向の説明曰く、小景はその子に、自分を介さずに直接言えと背中を押し、どうなったか気になったから日向を遊びに誘った、ということらしい。小景の性格的にそんなことをするか?とも思ったけど。
「何も問題はなさそうだけど?」
日向の説明を聞いた第一印象だった。告白してきた相手が女子という点を除けば、よくありそうな話に聞こえた。
「……うん」
頷く日向。だけどまだ問題の本質が見えてこない。日向としても話したいけど話したくないといった感じで、どうやらここは私が頑張るしかないらしい。私はいくつか思いつく可能性を日向に投げかける。
「実は葵って子の本命は小景だったとか?」
「……ううん。ちゃんと私のことを好きだったよ」
「じゃあ逆に、小景が葵って子を狙ってたとか?」
「それも違うかな?」
なんで違うと言い切れるんだろう?そう思った矢先、ひとつの可能性が浮かんできた。いや、まさかそんな、口に出すのを躊躇ってしまうような可能性。外れであることを確かめて、自分が安心するために私はあえてその可能性を口に出す。
「……じゃあ、小景が日向を好き、とか?」
「……」
日向は首を縦にも横にも振らなかった。でもその反応が答えになっているようなものだった。
「……うそでしょ」
思わず口から零れた。嘘だと願いながらも、今まであまり分かっていなかった、小景の日向に対する執着に、理由が付いてきて納得してしまっている自分もいる。
でも、まだ疑問がある。日向がそれに気が付いたのなら、なんで小景が気にしていないのか。いや、これは私が勝手に立てた仮定でしかない。それでも、日向が暗に距離を取ろうとしていたことを考えると、いい線いってる気はしている。
「……小景はなんで気が付いてないの?」
「それはね、小景が無意識にぽろっと言っちゃって、本人も気が付いてなかったみたいなんだ」
日向は目線を下に向けながら語った。どうやら、私の推察はあながち間違ってなかった。ただ正確には、気にしてないのではなく、気が付いていないみたいだけど。
「小景が日向のことを本当に、その、好きだとして、それは日向にとって泣くほどつらいことなの?」
「ううん、悩みの種ではあるけど、つらいって感じじゃないかな。私ね、日曜日に小景に『告白の返事どうするの?』って聞かれて、教えなかったの。この告白は、葵ちゃんが私に向けてくれた気持ちの結果だから。私がちゃんと受け止めて、私が最初に葵ちゃんに返すべきだって」
それは立派なことだ。仲間内であーだこーだ言うよりも遥かに誠実な対応だと思う。別に小景も口を出そうとしてたわけじゃないだろうけど、そこにちゃんと線を引いた日向は偉い。
「でもね、私はそのときもう聞いちゃってたんだ。小景が私を諦められないって零していたのを。うっかりとはいえ小景から出た気持ちを、葵ちゃんのときとは違って、私は受け取らないようにした。そしてこの先も受け取らないようにしようとしてる」
日向が視線を再び私に戻して微笑む。
「そういう色々が重なってちょっと嫌になってただけ。話してたら意外とスッキリしたかも」
キーンコーンカーンコーン
日向が言い終わるとほぼ同時に、昼休み終了5分前を告げるチャイムが鳴った。
「優里、聞いてくれてありがとう。そろそろ教室戻ろっか?」
日向が立ち上がろうとするのを、私は繋がったままの手で引き留める。
「待って!」
「どうしたの優里?」
このまま日向を帰すべきじゃない気がしてとっさに呼び止めた。今、日向をひとりにしないために私ができることはこれくらいしか思いつかなかった。
「今日、このままサボりましょう」




