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第46話 告白と私と日向

 お昼休み、私は文芸部に本を物色しに来ていた。いつも通り日向ひなたとご飯を食べようと思ってたのに、気が付いたら日向は教室からいなくなっていたから、仕方なくここで時間をつぶしていた。


 今日の日向は様子がおかしい。ずっとソワソワしているし、なにより小景と距離を取ろうとしているように見える。私としてはそれでいいと思ってるんだけど、理由は気になる。


 考え事をしながら本を選んで、部の貸出ノートに名前を書く。本を持ち出すときの部のルールだ。ノートを閉じて本を持つ。あとは教室に帰ってから読もう。私は部室を出るためにドアを開けた。


「うわぁ」


 日向が転がり込んできた。文字通り転がってきた。私は日向を見下ろして、日向は私を見上げている。私は反射的にスカートを押さえた。日向はそんなことに意識を向けていなかった。


「なんで優里ゆうりがこんなところに?」


 それは私が聞きたい。こんなとこに日向がいるだけでも普通じゃないのに、その目には涙が溜まっている。


「それはこっちのセリフよ。ここ、文芸部の部室なんだけど」

「え?そうなの?」

「……とりあえず中、入ったら?」


 ひとまず私は日向を部室に入れた。日向を適当に椅子に座らせて、私は長机を挟んだ反対側に座る。


 このまま日向に何も聞かないこともできる。日向が勝手に自分の中で折り合いをつけて解決するのをただ待ったっていい。


「日向、両手を出して」


 ただ、今回の私は踏み込むことにした。日向は言われるがまま、訳も分からない様子で両手を机の上に差し出す。


「触っていい?」

「え?……うん」


 状況を飲み込めないまま頷いた日向の手を、私の両手で包み込んでいく。安心させるように、逃がさないように。そして、弟をあやすように優しく問いかける。


「それで、なんで泣いてたの?」


 きっと何をどこまで話すかを考えているんだろう。日向は10秒ほど黙って考え込んだ後、ゆっくり口を開く。


「……えっと、ね。私、告白されたんだ」

「……へぇ」

「あ、あれ?意外と驚かないんだね」

「え?えぇ、まぁね」


 もちろん嘘。内心どっきどきだ。泣いていた日向には悪いけどテンションが上がってしまう。私は平静を装いながら続きを促す。


「それで?どうすることにしたの?」


 聞いてはみたものの、今の状況を見れば日向の選択は想像がついた。


「うん、悪いことしたとは思うんだけど、断っちゃった」

「……そう」


 内心ほっとしている自分がいることに罪悪感を覚えつつも、情報の収集を続けていく。


「日向に気のある素振りをしてた人っていたかしら?それとも一目惚れ的なやつ?」

「そう、最初は一目惚れなんだって」

「へぇ、そいつも見る目あるわね」

「……もう、茶化さないでよ」

「茶化してないわよ」


 泣いていたことで紅潮していた頬も相まって、照れている日向はすごくかわいく見えて、ついからかってしまいたくなる。


「断った理由とかはまぁいいわ。合う合わないとかあるでしょうし、私にも言いたくないでしょうから。でもそれで何で日向が泣いてるのよ」

「そうだよね、振った側が泣くなんて――」

「あぁ違う違う。そうじゃないわ。『何で振ったくせに』って意味じゃないわよ。私はただ、『何で傷つくことになったのか』って聞きたかっただけ」


 私は慌てて軌道修正しながら、改めて質問した。


()()()はね、はじめは一目惚れだったんだろうけど、ちょっとずつ色んな私を好きになってくれてたみたい。お手紙も貰ってね、すごく嬉しかったんだ」


 いわゆるラブレターってやつなんだろうが、何か引っかかる気もする。私はその違和感の正体がつかめないまま、相槌を打ちながら話を進める。


「告白されたのは、先週の金曜日でね、私が返事するのを今日にして待ってて貰ったんだ。それで今日の昼休みに屋上で断ってきたの」


 今のところ、普通の告白に見える。振った相手が豹変して日向を傷つけた。もしくは、日向が優しすぎるあまり、振った罪悪感で泣いているという可能性も現実味を帯びてきた。


「それで、振った後が問題だったんでしょ?」

「……うん」


 日向の歯切れが悪くなった。言いにくいことがあるんだろう。これが放課後ならこのままゆっくり聞いてもいいが、今はお昼休み。ちらっと部室の時計に視線を向けると、あと10分も昼休みが残ってないことを示していた。日向を傷つけないように言葉を選びながら可能性を削っていく。


「言いにくいなら答えなくていいんだけど、振った相手にひどいことをされたとかは?」

「ない」

「じゃあ、相手を振ったことを申し訳なく感じて泣いてたとか?」

「……ちょっとはあるかも」


 意外だった。相手にひどいことをされた訳じゃなかった以上、こっちが本命だと思っていた。でも日向が言うには「ちょっと」らしい。本当の原因は他にあるような言い方。でもそうじゃないなら、何が問題なんだろう。


 そう言えばさっき違和感を覚えた場所があった。「その子」、告白してきたのは年下なんだろうか?


「そういえば、日向。告白の相手ってどんな人なの?」

「……えっとね、1年のバド部の子」

「?」


 頭が「?」でいっぱいだった。わが校には数多くの部活がある。運動部のほとんどは男女で部活が分かれている。例えば、美華みかさんの所属しているバスケ部は、女子と男子でそれぞれ別の部に分かれていて、練習場所も異なっている。


 そして、バド部と言えば。


「日向に告白したのって――」

「うん、女の子」


 しばらく静寂が流れる。そう、バド部は女子しかない。勝手に男子から告白されたかと思っていたけど、相手は女子だったのか。


 1年のバド部の女子。


 この属性には覚えがある。そう、小景も1年のバド部の女子だ。小景はこのことを知っているんだろうか?日向は「日曜日、小景に遊びに誘われてバドミントンをしに行くことになった」と言っていたことを考えると、たぶん小景はこの話を知っていたんだろう。


 そして今日。日向は小景と距離を取る手伝いを私に頼んできた。となれば、次に聞くべきことはひとつだった。


「小景とも何かあったの?」


 静まり返った部室で、日向は小さく首を縦に振った。

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