第43話 告白と私と姉
「え?ちょ、ちょっと待って!」
お姉ちゃんの声で私は現実に帰ってきた。いや今までもずっと現実にはいたんだけど。お姉ちゃんに「なんで告白のことを知っているのか」を聞かれたから、辻さんに声を掛けられたときからの流れをずっと話しているうちに、そのとき考えてたこととかを思い出して夢中になっちゃってた。
「どうしたのお姉ちゃん?……えっと、それで、私どこまで話したっけ?」
私の質問に、お姉ちゃんは一息ついて答える。
「大丈夫、聞きたかったことも全部聞いた」
なんか言い方に引っかかりがある気がするけど、ことの経緯は分かってもらえたらしい。そうなれば、次は私から聞きたいことがある。そう、金曜日からずっと聞くに聞けなかったこと。
「それで、お姉ちゃん。辻さんと付き合っちゃうの?」
お姉ちゃんが答えるまでの間、まるで私が告白したみたいに緊張しながら言葉を待っていた。
「それは、小景にもまだ言えないかな」
てっきり「付き合う」か「断る」のどちらかが聞けるものと思っていた私は、その思いもよらない答えに面食らった。私は弱々しい声でその理由を尋ねる。
「……な、なんで?」
「だって、私に告白してくれたのは葵ちゃんでしょ?葵ちゃんの私に向けた告白を最初に受け取ったのは私なんだから、葵ちゃんに向けた私のお返事を最初に受け取るのは葵ちゃんじゃないと。そうじゃないと、あの子の思いを踏みにじっちゃうことになると思うんだ。だから、もう少し待ってね」
自惚れてた。私が勇気を出して聞きさえすれば、お姉ちゃんは答えてくれるだろうって思ってた。お姉ちゃんは私を優先してくれるだろうって。でも、お姉ちゃんは私と違って、身近な人にだけじゃなくて、誰に対しても真剣に向き合ってるんだ。
「ごめんなさい」
自分が情けなくて謝っていた。別に先に聞いて辻さんに伝えてやろうとか思っていたわけではなくて、ただ自分が安心したかっただけ。でもそれは結局、私が辻さんのことをどうでもいいと思っているからこそ出た、私のわがままでしかなかった。
「えっ!なんで小景が謝るの?むしろ私の方がごめんなさいだよ?葵ちゃんから相談受けてたんだったら、気になっちゃうよね」
お姉ちゃんは分かっていない。きっとお姉ちゃんは、私と辻さんは同じ部活の仲間で、私が「直接言いなよ」って言ったのも辻さんの背中を押すためだって思ってるんだろうな。
いないって。同じ部活の同学年の仲間を、未だに「さん」付けで呼んでる子なんて。興味なかったの。高校からバド始めた子なんて。私が先輩たちと練習する機会が多いのをいいことに関わる気がなかっただけ。
自分の性格の悪さが嫌になる。心が冷めていくのを感じる。
パンッ
私は音に反応して顔を上げる。
「はい!この話はおしまい!休憩もいっぱいできたし、続きしよ!もう小景の動きは完全に見切ったからね」
手を鳴らしたお姉ちゃんは元気よくコートの反対側に駆けていく。きっと私の表情を見て、気を遣ってくれたんだろうな。私は壁に立てかけていたラケットを手に取って、コートに立った。
◇ ◇ ◇
「あぁ~すっごく疲れた!1週間分は動いた気がする!」
「お姉ちゃん、これで1週間分だったら、もっと運動しないとじゃない?」
私とお姉ちゃんはふたりで帰り道を歩いていた。日も随分と沈んでいて、夕日が街をオレンジ色に染めている。なんだかんだあの後、私は機嫌を取り戻して、楽しく過ごせていた。暗くなってしまった分を差し引いても、楽しく遊べた分、トータルで言えばプラスだった。
告白のことは気になって仕方がない。もし、お姉ちゃんがOKしてしまうんだったら、お姉ちゃんを独り占めできるのは今日が最後かもしれない。そう思ったら余計に今日を楽しむしかなかった。
「そういえば小景はテストどうだった?」
告白でそれどころじゃなくなってしまったけど、今週はテストだったんだ。言い訳をすると、勉強会をしたとはいえ、直前まで大会に向けて練習をしていたから、まだ全部の教科は返ってきてないけど――
「まぁ、あんまりよくなさそう」
「やっぱ大会で忙しかったから仕方ないよね」
「う~ん、そうは言ってもやっぱ普段の授業もちゃんと受けなきゃなぁ」
「あれ?もしかして小景、授業中――」
「寝てる」
「あちゃ~」
お姉ちゃんは手を額に当てて、わざとらしくリアクションする。
「ちゃんと授業は受けとかないとダメだよ。私と優里がいつまでも教えられるわけじゃないんだから」
「……うん」
別に今の言葉は辻さんと付き合うから時間が取れなくなるってことじゃなくて、来年には卒業していなくなるってことなんだろうけど。今の私はお姉ちゃんとの距離感が変わってしまう話は聞きたくなかった。だから――
「……ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?」
「この前お姉ちゃんが買ってくれた本。もうすぐ読み終わるんだ。だからね、夏休み。一緒に映画行こうね」
私は、お姉ちゃんとの未来の約束を1つでも多く作っておく。もし、お姉ちゃんが誰かのものになってしまっても、私だけのお姉ちゃんにできる日を作るために。
「うん!映画楽しみだね!」
「私ね、夏休みにやりたいこと、まだまだいっぱいあるんだよ?」
そう、私はね、「お姉ちゃんと」夏休みにやりたいことがまだまだいっぱいあるんだよ?
「いいね!私も勉強の合間を縫って時間作るね!」
そう言って、私の汚い策略を知らないお姉ちゃんは、私に微笑みかけてくれた。




