第42話 告白と妹と私
「はぁ、告白、断ってくれないかな」
「え?」
小景の口から小さく出た言葉に私は耳を疑った。
告白
今の私にとってこの言葉は、普段その意味を聞かれて思い浮かべるものじゃなくて、2日前の出来事のことを指している。
◇ ◇ ◇
金曜日の昼休み。私は知らない1年生の女の子に呼び出された。私に用がある人なんて今までいなかったから、内心怖かったけど、無視するわけにもいかないから、その子に連れられて屋上に来ていた。
もしかしてカツアゲでもされるのかな?わざわざ私を呼び出してまで?なんて悪いイメージばっかりが頭の中を埋めていくなか、その子が口を開いた。
「私、辻 葵って言います」
「……えっと、葵……ちゃん?それで私に用事って何かな?」
私の問いかけに、葵ちゃんはさっきまでの明るい印象から一変、肩を縮めて黙ってしまった。どうやらすごく緊張しているようで、私もつられてそわそわしてしまう。そのままの状態でどのくらいの時間が流れたか、本当は数秒の間だったのかもしれないし、私が感じたように何分も待っていたのかもしれない。次に葵ちゃんが口を開いたときには私の口の中はからからになっていた。
「あっ!あの!林先輩。前に見かけたときからすごく気になってて!よかったら私と付き合ってください!」
そう言って、顔を真っ赤にした葵ちゃんは、手紙が入ったかわいらしい封筒を両の手で私に差し出した。さっきからの空気感でなんとなくそういう方向の話なんだと頭では分かっていたけど、いざ言葉にされると私の方まで顔が熱くなる。葵ちゃんは頑張って勇気を出してくれたんだ、私もまずは何か言わないと。
「……えっと、勇気出してくれたことと、お手紙、ありがとう。ふふっ、かわいい封筒。お手紙はあとで読ませてもらうね」
「えっ、えっと」
「お返事なんだけど、来週まで待ってもらえないかな?急なことで私もびっくりしちゃったし、お手紙もちゃんと読みたいから。ね?」
「……はい!分かりました!」
そうだ、返事をするにも時間と場所を伝えなきゃいけないんだ。
「葵ちゃん」
「はっ、はい!」
私の言葉すべてに反応しちゃう葵ちゃんに小動物のようなかわいさを感じて、自然に微笑んでしまう。
「ふふっ、ひとまず連絡先、交換しとこっか?」
そう言って私はポケットからスマホを取り出す。葵ちゃんもあわあわしながらスマホを取り出して連絡先を交換した。
◇ ◇ ◇
家に帰った私は、夕食の準備も後回しにして床に座り込んだ。ひとりの空間になったことで改めて、告白されたという事実をゆっくり咀嚼できてしまって、また顔が熱くなる。正直午後の授業はほとんど上の空だった。
カバンから昼休みに貰った手紙を取り出す。かわいい花の飾りがついた薄い緑色の封筒を開けると、中にはレース柄で縁取られた、これまたかわいらしい便箋が1枚入っていた。
手紙は、葵ちゃんの軽い自己紹介から始まって、葵ちゃんが私を知ったきっかけ、私のどこに惹かれたのか、なんで友達じゃなくて、彼女になってほしいのかが書かれていた。私は自分に向けられた愛の言葉が嬉しくて、何度も読み返した。
私は結局、その日寝るまで告白のことで頭がいっぱいだった。せっかくお手紙を貰ったから、私も手紙を書こう。日曜日は小景と遊びに行くから、明日にでも封筒と便箋を買いに行こう。そんなことを考えながら、私は眠りについた。
◇ ◇ ◇
それが2日前。私はこのことを優里にすら話していなかった。私の様子がおかしいことを、優里なら感じていたかもしれないけど、その理由までは分からなかったはずだ。
それなのに小景は知っていて、しかもうれしく思っていないみたい。
「なんで告白のこと知ってるの?」
私の問いの意味を、すぐには理解できていないみたいだった。小景が答えないまま、気まずい沈黙が流れる。しばらくして覚悟を決めたのか、観念したのか、訳を話し始めた。
「……えっと、その子。辻さんね。バド部なんだ。それでお姉ちゃんに告白する前の日にね、私に『お姉ちゃんとの仲を取り持って』って言われてたの」
そして、その翌日。葵ちゃんはひとりで私のところに来た。ということは小景はそれを断ったってことだ。
「それで私、辻さんに『私に頼んでないで、直接お姉ちゃんに言いなよ』的なことを言って突っぱねたんだけど。次の日になって、やっぱ悪いことしたかなって思って、一応話だけ聞こうとしたら、辻さんが『昨日ので勇気出たから告白してきた!返事は来週もらえるんだって!』って言うもんだから。お姉ちゃんがどうするのか気になって、そのあとすぐ電話したの」
金曜の放課後の小景の電話。今日の遊びの予定を決めた、あの電話のことだ。小景が部活の時間に電話をかけてきたのが珍しくて、二つ返事でOKした。
「でも、告白のこと怖くて聞けなくて、代わりに今日遊ぶ予定を入れて、今日までに聞く準備しようって思ってた」
小景は必死なのか、私の「どうして告白のことを知っていたのか」について説明し終わっているのに、その後も説明を続けている。もじもじとしながら話し続ける小景からは、コート上でのキレは跡形もなくなっていたが、それでも独白は続く。
「結局、心の準備できないまま今日になっちゃった。一緒にバドやって楽しかったし、これからもっといろんなことをお姉ちゃんとやれると思ってたのに、取られちゃうかもと思ってたら口からつい出てた」
もはや小景は私と話しているというより、壁に向かって自白しているみたいな状態で、私の相槌があろうとなかろうと続けている。
「お姉ちゃんが男の子と付き合うってなるんだったら、大人しく受け入れられるんだけど、女の子と付き合うんだったら、私も諦めがつかないっていうか……」
「え?ちょ、ちょっと待って!」
私はまた耳を疑った。




