第40話 同級生と私と姉
テストが終わった次の日、学校中が解放感に満ちている。私だってそう。再開した部活も心なしか気合が入っている気がする。
「ねぇ、林さん」
いつものようにアップをしてたら、同じ1年のメンバーから声をかけられた。珍しい。スポーツの特待生として入学した私は基本的に上級生と練習していたから、同学年の子たちとの関わりは少ない。
「ん?どうしたの?」
「この後、少し話せない?」
何の話だろう?まあ部活の後だったら特に用事はない。
「うん、いいよ。部活終わってからでいい?」
「うん、じゃあまた後で!」
約束を取り付けると、その子は練習に戻っていった。
◇ ◇ ◇
「お姉さんを紹介してください!」
部活が終わって、さっきの子に連れられて体育館裏の人目につかない場所に移動した私を待っていたのは、そんな言葉だった。
「え?」
「3年生の林日向さんって、林さんのお姉さんだよね?」
「うん、まぁそうだけど」
「この前、1年の教室に来たときにすごくいい人そうだなって」
要するにこの子は、お姉ちゃんと友達になりたいのか。
「えぇ、いやだよ」
つい断ってしまった。でもこの子はまだ引き下がらない。
「なんで?別にいいじゃん」
なんてしつこいんだ。そのガッツがあるなら、私を通さなくてもいいんじゃないかな?そんなことを考え、内心イライラしながら適当に返す。
「そりゃなんでって、お姉ちゃんは私の――」
そこで言葉が詰まった。私の?私のなんなんだろう。そもそも、なんで私はお姉ちゃんを紹介するのが嫌なんだろう。
「ってか、そんだけしつこく私に頼む根性があるんだったら、直接お姉ちゃんに話しに行ったら?」
考えがまとまらないイライラを無理やり相手に押し付けた。相手は少し考え込んだ後、何かに納得したようにうなずいた。
「……そっか、そうだよね。ありがとう、林さん」
そう言って、彼女は走り去ってしまった。その場に残された私は、さっきまでの自分の態度の悪さを思い出して反省するのだった。
◇ ◇ ◇
「ねぇ、辻さん」
翌日、私は昨日私を呼び出した子(辻さんというらしい)に声をかけていた。同じ部活ではあったんだけど、関わりがなくて名前を覚えていなかったから、今朝、学校で名前を調べておいた。
きっとこういうところが、中学で浮いていた原因なんだろうなと思いつつも、今回は昨日の態度を謝ろうとするところまで進んでいるんだから、かなり前進した方だと、自分を褒めてあげたい。
「あ、林さんじゃん」
「昨日のことなんだけどさ――」
私が言い切る前に、辻さんは話の主導権を奪っていった。
「昨日はありがとう、おかげで私勇気出しちゃった!」
状況が理解できない。どうやら今、私は感謝されているらしい。昨日はお世辞にも、いい態度とは言えなかったんだけど。ん?勇気出した?っていうことは、お姉ちゃんに話しかけに行ったんだ。本当にガッツあるじゃん。
「それでね、『返事は来週まで待って』だって」
ん?返事?何の話をしてるの?私は恐る恐る尋ねる。
「辻さん」
「ん?」
「お姉ちゃんのとこに何しに行ったの?」
「何って、もちろん告白だよ!」
そうだよね。友達になるだけなのに、返事を来週まで待たせる人なんていないもんね。昨日の「いい人そう」って言うのはそういう意味だったんだね。
「そういえば、林さんは私に何を言おうとしてたの?」
「あぁ、いや、結局お姉ちゃんに声を掛けに行ったのかなって聞こうと思ってただけ。どうなったか教えてね」
私はいったん、話を終わらせたくて、自分の話題を適当にはぐらかして、その場を後にした。
◇ ◇ ◇
私は部活を抜け出して人目のつかない場所でお姉ちゃんに電話をかけていた。お姉ちゃんが告白されたなんて、信じられない。いや、お姉ちゃんは美人だし、優しいからバンバン告白されるくらいでもいいんだけど、そういうことじゃない。
「もしもし。小景?あれ?今部活じゃないの?」
電話に出たお姉ちゃんは、私の部活の心配をしてくれている。
「うん、今ちょっと休憩中」
嘘です。部活始まったばっかりで、休憩なんてあるわけありません。
「そうなんだ~。それでどうかしたの?」
「お姉ちゃん、今日――」
告白されたの?とは聞けなかった。もし「そうだよ!付き合っちゃおうかな」とか、今電話越しに聞いてしまったら、ショックで部活を本当にさぼることになってしまう。私はわざとらしく咳払いして言い直す。
「お姉ちゃん、日曜日バイトお休みだよね?一緒に遊びに行かない?」
だから、話を週末に先延ばしにした。
「いいよ!どこに行くとかはあとでまた話そっか?」
「うん、ありがと。じゃあまた後でね」
「うん、あ!そうだ、小景」
「何?お姉ちゃん」
「部活、さぼっちゃだめだよ」
ばれてる。やっぱりそうだよね。放課後になったばっかだもん。
「うん、ごめんなさい」
「ふふっ、じゃあまたね」
通話を終えて、私は体育館に戻る。その後の部活中、というか日曜日になるまでずっと、私の頭の中はお姉ちゃんの告白のことでいっぱいだった。




