第39話 夜ご飯を食べる4人
「「いただきます」」
お姉ちゃんちの食卓を4人で囲む。勉強会は終わって、前回は食べられなかったお姉ちゃんの料理が今目の前にある。
「ごめんね、料理のレパートリーそんなになくて。だから今日は私でも作れるオムライスで」
「そんな、おじゃまさせてもらっている上に、晩ご飯までいただいて」
「も~、美華ちゃんったら、遠慮しないで」
私は改めてお皿に視線を落とす。周りには彩りとしてブロッコリーが並んでいて、中心にあるオムライスにはケチャップで「コカゲ」と書かれている。美華と優里先輩のオムライスも同じくケチャップで名前が書かれていた。
「ほら、冷める前に食べちゃって」
「は~い」
お姉ちゃんに促されるままに、スプーンを口に運ぶ。
「おいしい!」
「ふふっ、ありがと」
勉強で疲れた体に染みわたる。私はもくもくと食べ進める。
「そういえば小景、昨日も大会だったでしょ?お疲れ様。応援行けなくてごめんね」
「いいのいいの、美華来てくれてたし。団体戦って私が勝ってもチームで負けることもあって、あんまり乗り気になれないし」
その後も他愛のない雑談を交えながら、楽しい晩ご飯の時間を過ごした。
◇ ◇ ◇
「それじゃあ、そろそろ解散にしよっか」
晩ご飯を食べ終わって、お皿をシンクに運びながらお姉ちゃんが告げた。その提案に美華が応える。
「はい!今回もお世話になりました。おかげで明日は何とかなりそうです!」
「そっか、よかった~。これ乗り越えたら夏休みだから頑張ろうね!」
私は荷物をまとめながら、お姉ちゃんと美華の会話を見守る。
「小景」
優里先輩に呼ばれて振り返る。先輩は小声で続ける。
「私と小景は『あの場所で今の日向の話をしている関係』ってことになってるわ」
「分かりました。……でも先輩」
「なに?」
「なんで私を庇ったんですか?」
「違うわ、私は自分を守ったのよ。結果、あんたも守られただけ」
「違いますよね?私を売ってしまえば、お姉ちゃんを先輩だけのものにできたかもしれない」
「それじゃ、日向がつらいじゃない。妹まで敵だなんて」
妹まで。今確かにそう言った。そっか、私の家族か。いや、まだ結論付けるのは早いな。あとでじっくり考えよう。せっかくだし、昨日のこと直接聞いちゃお。
「まぁ、分かりましたよ。ところで優里先輩。昨日ここに泊まりました?」
「な、なんでそう思うの?」
この反応はおそらくビンゴ。でも、「白い部屋に呼べなかったから」なんて言うわけにはいかないから、他の証拠を出していく。
「今日の優里先輩、お姉ちゃんと同じ匂いがする気がするんですよ」
「そ、それだけじゃ――」
「そう、それだけじゃ足りなかったんですけど、さっき、洗面台に歯ブラシ増えてるのを見ちゃったので、言ってみるだけの情報はあるかなって」
「はぁ、私よりよっぽど探偵ね」
優里先輩は観念したように息を吐いた。
「えぇ、泊まったわ。仲直りした後、夜も遅くなっちゃったから」
「ふ~ん、その理由は嘘ですね」
「えぇ、嘘よ。でも詳細は言わないわ。まったく、ほんとに鋭いわね」
本当に仲直りするのに時間がかかっちゃって、夜遅くなってしまったんだったら、優里先輩は翌朝、学校に行く前に一度家に帰って支度しないといけない。それよりは最初から泊まるつもりだったか、途中で荷物を取りに帰ったって考えた方が自然だ。
「乙女の勘ってやつですよ」
「なによそれ」
勝ち誇ったような笑みを浮かべていると後ろから声が聞こえてくる。
「小景も勉強捗った?」
いつの間にか美華と話し終えたお姉ちゃんがこちらに来ていた。
「うん、テスト終わったら、また遊び行こうね!」
「そうだね、あと2日頑張ろう!」
「よし!じゃあ私と美華は先に出るから、優里先輩はもうちょっとゆっくり片付けていいよ!」
「え?あぁ、分かったわ。美華さんもテスト頑張ってね」
「はい!頑張ります!先輩もお疲れ様でした」
「えぇ、お疲れ様」
そうして私と美華は玄関で靴を履く。
「「おじゃましました」」
「は~い、また来てね~」
◇ ◇ ◇
寮に戻って明日の準備をしながら、お姉ちゃんの家でのことを振り返る。
「それじゃ、日向がつらいじゃない。妹まで敵だなんて」
やっぱりこれが引っかかる。もう少し深く考えてみようかな。私が引っかかっているポイントが2つある。
1つ目は、「まで」って言葉。これは私以外にも敵がいるってこと。それはこれまでのお姉ちゃんを見てれば分かる。ただ、それが誰なのかは私には分からなかった。
2つ目は、「妹」って言葉。優里先輩は私と出会ってすぐのころ、私のことを「小景さん」って呼んでたし、お姉ちゃんとふたりのときは「日向の妹」って呼んでたのを知ってる。地区予選の会場でふたりが話してるのを聞いちゃったから。そして今はもう「小景」って呼び捨てになってる。
だからこの「妹」って言うのは私を指しているようで、家族としての「妹」を指していたんじゃないかな?だとすると「妹まで敵」って言うのは、妹以外の敵が既に家族の中にいるってことだと思う。
優里先輩が意味もなく「妹」って使ったんじゃないんだったら、これで正解な気がする。それにしても、家族か。お姉ちゃんが家を出て行った理由もそうなんだろうな。私には普通に見えるママとパパ。どっちかがお姉ちゃんにひどいことをした。
あの発言を読み解くんだったらこんな感じなのかな。
あとは、白い部屋で優里先輩を呼べなかった条件も少し絞れた。自分の家じゃなかったからか、ひとりで寝ていなかったからだと思う。でも、まあそこを区別する必要はなさそうかな。どうせ自分の家にいないんだったら、誰かといるんだろうし。
すごく実りのある勉強会だったな。これから夏休みに入るし、私はもっとお姉ちゃんのことを知れるはず。




