第38話 お姉ちゃんの部屋にまた4人
お姉ちゃんの家、今日で2回目。今回もテスト勉強のためにおじゃまさせて貰っている。メンバーも変わらず、私とお姉ちゃんと美華、それと――
「小景?どうかした?分からないところでもあったの?」
「い、いえ。なんでもないです。すみませんぼーっとしてました」
「そう?ならいいけど」
優里先輩に視線を悟られ、慌ててごまかしながら明日のテスト科目の提出物を消化していく。ただ手を動かしながらその実、私は昨日のことで頭が一杯なんだから、明日のテストもこのままじゃマズそう。私は気分転換にコンビニに散歩に行こうと席を立つ。
「私、ちょっと集中力切れちゃったからコンビニにいってくるね?」
「あ、じゃあ私もいこうかな?」
美華も次いで立ち上がる。ふたり揃って玄関で靴を履いていると、優里先輩がこちらに向かってくる。
「ふたりとも、ついでにおつかい頼まれてくれない?」
「いいですよ」
「ありがと、じゃあメーカーとかはなんでもいいから、ホワイトチョコ買ってきてくれる?おつりは好きにしていいから」
そう言って先輩は300円手渡してきた。
「それじゃあ、よろしく。気を付けていってらっしゃい」
「「いってきま~す」」
◇ ◇ ◇
「ねぇ、小景」
「ん?」
コンビニで買い物を済ませて、まだ歩き慣れない道をふたりで並んで歩く。戻ると勉強が待っているからと、どちらからともなくそのスピードはゆっくりになっていた。内心まだ戻りたくない私は、軽い現実逃避ついでに美華の話に耳を傾ける。
「小景ってさ、いつの間に優里先輩とあんなに仲良くなったの?この前言ってたいい事ってやつ?」
「え?そんな風に見える?」
「うん、見えるよ。それで?どうなの?」
美華がどうしてそう思ったのか気になりつつも、私の実行した作戦について話した。
「白い部屋のおまじないを使ったの。優里先輩に。そこでなら優里先輩とふたりっきりで話せるし、何より私から逃げられない」
「……な、なるほど、ね」
明らかに美華が引いている。まあ当然だよね。美華が教えてくれた方法で監禁まがいのことをしているんだから。私は気にせずに話を続ける。
「でも先輩ったら、意外としぶとくてさ、ぜ~んぜん話してくれないの」
「まあ、お姉さんが言いたくないって言ってることなんだし、優里先輩も言わないよね」
「でもね、最初に呼び出したときの先輩は結構よかったんだ。私と先輩が知ってるお姉ちゃんに違いがあったみたいでね、そこから先輩何かに気が付いてた。だから私も少し情報が手に入れば同じ結論までたどり着けるはずなんだ」
「……」
「だからね、今度はおばあちゃんからお話を聞いてみようかなって。もうすぐ夏休みだしちょうどいいよね」
「……そう、なんだ」
「あ!そういえば一昨日なんかね、お姉ちゃんとけんかしたらしくて、すごく弱ってたんだ。私のことゆっくりだけど信用してくれてるみたい」
「やっぱり仲良くなったように見えたのは間違いなかったんだね」
「うん、大正解だったよ。でもどうしてそう思ったの?」
少しは考えたものの、やっぱり私はこの疑問が解消されていなかった。美華は小さくつぶやく。
「……呼び方」
「え?」
「優里先輩が小景を呼ぶときの呼び方が、前会ったときと違ったから」
なるほど、確かに私はもうあの場所で呼ばれ慣れてしまっていて気が付かなかったけど、美華からすれば急に呼び方が変わっていたのか。
てことはお姉ちゃんも同じ疑問を今持ってる?いや違う、どこまで話したのかは分からないけど、優里先輩は私のことをお姉ちゃんに話したんだ。じゃないと今日、私を小景だなんて呼ばなかったはず。
お姉ちゃんの様子を見るに、私のことを悪くは言ってなさそうなんだけど、それはそれでなんでか分かんない。一昨日だってなんでか私をかばったかのような口ぶりだった。考察中の私に美華は話しかける。
「ねぇ、小景」
「ん?」
「もう、優里先輩を白い部屋に呼ぶのはやめようよ」
「なんで?」
「ほ、ほら小景のお財布も心配だし、そんだけ仲良くなったんだったら、わざわざ白い部屋を使わなくても、LINEとか学校で話しかけるとかで距離は縮められるんじゃない?」
「う~ん、確かにそうかも?まあこのままじゃ美華と遊びに行くお金も使っちゃいそうだしいい機会かもね」
「そっ、そうだよね!部活も落ち着くし、夏休みにもなるんだからいっぱい遊びたいもん」
美華は安心したような笑顔で私としたいことを話してくれる。美華をないがしろにするのも悪いから、いったん提案は受け入れる。実際お金の心配はあったし。でも全く使わないという選択肢は私にはもうない。使えるものは何でも使う。改めて決心を固めながら、私たちはふたり笑顔でお姉ちゃんの家に戻った。
◇ ◇ ◇
「「ただいま」」
「おかえり~気分転換はできた?」
家に戻った私たちをお姉ちゃんが迎えてくれる。お姉ちゃんにただいまを言うのはすごく久しぶりな感じがする。いや実際ずいぶん言ってなかったんだけど。
「うん、おかげさまでまだ頑張れそう。あとこれお姉ちゃんにも差し入れ」
私は買ってきたお菓子の一部をお姉ちゃんに渡す。
「え~それは悪いよ~」
「いいのいいの、おじゃまさせて貰ってるのはこっちの方なんだし」
「そっか、じゃあ貰っておくね」
お菓子を受け取って部屋に戻るお姉ちゃんについて私たちも部屋に戻る。
「あ!そういえば」
そう言ってお姉ちゃんが急に立ち止まるもんだから、お姉ちゃんの背中にぶつかりそうになる。背中まで伸びた長い髪の匂いが近くで感じられるほ、ど、に?
あれ?優里先輩と同じ匂いがする気がする?
「今日はご飯食べていく?」
「え?あぁ……うん」
「分かった、美華ちゃんも食べていく?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
私は歯切れの悪い返事をしながら、部屋に戻ってレジ袋からチョコレートを取り出す。優里先輩にチョコレートを届けるついでに近づいて、もう一度確かめる。やっぱり同じ気がする。
「はい、先輩。チョコレートとお釣りです」
「ありがと、お釣りは手間賃ってことにしておいてくれてよかったのに」
「いえ、それはちょっと悪いですから」
「そう?じゃあお礼にチョコあげるわ」
先輩はパッケージを開けて、個包装になっているチョコをいくつか私に手渡した。
「ありがとうございます」
「あんただけで食べないで、美華さんにもあげなさいよ」
「分かってますよ」
貰ったチョコのいくつかを美華のノートの近くに置いて、再び席を立ってトイレに向かう。お姉ちゃんの家は3点ユニットバス。要するにお風呂と洗面台とトイレがひとまとめになっている。私は別に用を足したかったわけじゃなくて、確認しておきたいことがあった。ほら、やっぱり。
前に来たときにはなかったもの。洗面台のコップに立てかけられている歯ブラシが、1本増えている。




