第37話 テストがマズイ!私と美華
月曜日。昨日の団体戦は惜しくも次のステージへの切符を獲得できなかった。団体戦はシングルス3戦とダブルス2戦の合計5戦のうち、3勝したチームの勝利となる。私はシングルスでしか参加してなかったし、私自身は負けていなかったこともあって、個人戦ほどの悔しさは感じられなかった。
個人戦で勝ち残っている人や、その相手を務める人以外の3年生は昨日が最後の試合になった。つまりは引退になる。中学生のころと違うのは、進学して再びバドを続けるという選択肢が極端に狭くなるということ。中学生のほとんどは高校に進学するが、高校では中学のころよりも多くの人が進学以外の道を選ぶ。仮に進学したとしてもバドを続ける環境があるという保証はない。
私にもいずれその日が来る。先輩たちの姿を通して、いずれ終わる青春を見た気がして、昨日の私は不安に襲われていた。
美華は昨日も応援に来てくれていた。個人戦だけでも十分美華にお世話になったのに、2日も来て貰って、うれしさと少しの申し訳なさがあった。美華が言うには「来年は小景が応援に来ないといけないんだから、これくらいは気にしないで」だと。まったく甘く見られたものだ。来年の私はもっと強いんだから、そんなことにはならない。
と昨日は息まいていたんだけど。ふと部活の空気から現実に帰ると、学校はテスト一色だった。私はテスト勉強をほとんどしていない。先週から始まっていた部活動自粛の期間も大会が控えていたから練習を認められていたし、私もその方が楽しかったからきっちり時間いっぱい練習をしていた。
おかげで今日のテストは散々だった。明日以降は巻き返せるんだろうか?とりあえず私は美華のもとに向かって、今日の惨状について慰めて貰うことにした。
「み、美華~」
「おつかれ、どうしたの小景?」
「……テストダメかも」
「だって勉強してないでしょ?昨日帰ってからは勉強した?」
美華からの当たり前の指摘に、私は気持ちよく首を縦に振れないまま、歯切れの悪い回答をする。
「提出物だけ頑張って終わらせたけど……」
「だよね、まぁ私も全然勉強してないけど」
「なんで美華まで勉強してないの!?」
「いやぁ、それは、まぁ?小景いなかったから、ひとりじゃなかなか。ねぇ?」
そう言って美華は責任の一部をこっちに擦り付けてきた。な、なんて図太い。
「なんで私のせいになるの!……まぁいいや。今日はこれからどうしよっか?私か美華の部屋で勉強会する?」
「お姉さんたちに勉強教えて貰うのは?」
それもいいかもしれないと一瞬思ったけど、私はすぐに首を横に振る。
「いやダメダメ。この前はテスト前の期間だったからまだよかったけど、今は真っ最中だし」
「そっかぁ、でも私たちだけでやってもどうせ進まないしダメ元で、ね?」
「それ頼むのどうせ私なんでしょ?言いにくいってぇ」
「じゃあ、私もついていくよ。ほら3年の教室行こ!」
そう言って美華は立ち上がる。フットワーク軽すぎ。私もしぶしぶ立ち上がって美華に並んで3年生の教室に向かった。
◇ ◇ ◇
3年生の教室の前、廊下からちらちらと教室の中を覗き見る。どうやらお姉ちゃんと優里先輩はいるみたいだ。私は美華と顔を見合わせたあと、教室の入り口からお姉ちゃんを呼ぶ。
「すみませ~ん」
その声に教室中の視線がこちらを向く。当然お姉ちゃんたちも私に気が付いた。
「お姉ちゃん!ちょっとこっち来て!」
私はお姉ちゃんに向かって大きく手招きをしながら呼んだ。お姉ちゃんは優里先輩にひとこと告げてから席を立ち、私たちの方に向かってきた。お姉ちゃんは入り口で話し込むのは迷惑だろうと廊下に私たちを誘導した。
「小景、美華ちゃん、おつかれさま」
「おつかれさまです。お姉さんお久しぶりです!」
「うん、久しぶりだね。ふたりともテストは順調?」
「お姉ちゃん。ちょうどそのことなんだけど……勉強また見て貰えないかな、って。いやごめんね、迷惑なのはちゃんと分かってるんだけど……」
言ってて申し訳なさが増してくる。こんなことになるならしっかり昨日も勉強しておけばよかった。私は肩を縮めながら返事を待つ。
「私は別に大丈夫だけど、優里と勉強する予定だったから、ちょっと聞いてくるね」
そう言ってお姉ちゃんは、教室に戻っていった。席でスマホをいじっていた優里先輩と少し話したかと思うと、ふたりしてスクールバッグを持ってこっちに戻ってきた。
「優里もいいって!」
「おつかれさま、小景、美華さん」
「……お疲れ様です先輩。巻きこんじゃってすみません。私と小景じゃ勉強にならなくて」
「いいのよ、頼れるうちに頼っときなさい」
美華は何か言いたそうな顔をしていたけど、私にはその理由は分からなかった。そして私は私で、優里先輩に対して少し気になっていることがある。
それは、昨日のこと。最近の私が2日に1回くらい通っている場所がある。そう、白百合神社だ。私はここ2週間ほど、事あるごとに優里先輩を白い部屋に呼び出している。毎回461円もお賽銭を入れているので、私の懐は寂しくなる一方だった。それでも私は優里先輩を通して、お姉ちゃんの過去の糸口を探ろうとしていた。
最近はただの雑談部屋になってしまっているが、私は懲りずに昨日も優里先輩を呼ぼうとしていた。それは、一昨日呼び出した先輩が珍しく目に見えて弱っていて、その後が心配だったからというのもある。一応LINEで「仲直りした」とだけ連絡を貰っていたけど、ちゃんと話を聞いておきたかった。それに弱みを見せた先輩に、付け入る隙を感じたというのもある。
でも、昨日は白い部屋に先輩を呼べなかった。私が手順を間違っていたとは思えない。だとすれば、先輩が何か私の知らない対処法を見つけたかもしれなかった。そうなると、私がお姉ちゃんの過去を知るための可能性が1つ失われることになる。私が呼び出しに失敗したことには気が付いていないだろうから、優里先輩に悟られることなく、さりげなく昨日の行動を探る必要がある。
そんなことを考えていると、お姉ちゃんが話を進める。
「勉強会どこでしよっか?またうちに来る?」
「え!行きたい行きたい!」
つい反射で言ってしまった。本当はタイミングを見て優里先輩にだけコンタクトをとりやすい場所、図書室とかを提案しようとしていたのに。いやでもお姉ちゃんの部屋には行きたい。
「日向が迷惑じゃなければいいわよ」
「うん、大丈夫だよ。じゃあいこっか」
「先輩たち、今回もよろしくお願いします!」
そうして私たちはお姉ちゃんの家に向かう。こんな状態で私は勉強に集中できるんだろうか?




