第4話 放課後に向けて私と美華
遠回りして1年の教室に戻った私は美華を探した。お姉ちゃんよりも少し高い背にお姉ちゃんとは正反対で短く切りそろえられた髪。どちらも長身でスラッとした体型だけど、お姉ちゃんが文学少女というのなら美華はスポーツ女子といったところ。実際に美華はその恵まれた体格を生かしてバスケに励んでいる。
私は美華の前の席に座るとわざとらしく深刻な顔をしてみせた。
「美華~、助けて。相談があるんだけど」
「どうしたの小景?」
「実は――」
私は美華に昨日から今日にかけての顛末を大まかに説明した。白い部屋が本当だったこと、お姉ちゃんを白い部屋に連れて行ったこと、お姉ちゃんを傷つけてしまったこと。さすがに何がきっかけで傷つけてしまったかまでは話さなかった。それに関しては美華も深くは追及してこなかった。そこが美華の優しさだろう。今はそれに甘えさせてもらう。そして今日の朝、3年の教室を訪れたこと、お姉ちゃんに謝って放課後一緒に帰る約束を取り付けて今にいたったところまで聞いて美華が口を開く。
「もうお姉ちゃん呼び隠さないんだ?」
確かにそうだった。昨日までは名前で呼び捨てだった私が翌日急に「お姉ちゃん」だなんてつんつんしてた自覚があるだけに指摘されると恥ずかしい。いや、そういう話をしたいんじゃなくて。私は不服を訴える顔で美華を見ていた。
「ごめんごめん。まじめな話だよね、お姉さんと仲直りしたいってこと?」
「うん、でもそれだけじゃないの。やっぱり私はお姉ちゃんがどうして家を出て行っちゃったのか、知りたい。」
どうして家を出て行ったのか、どうしてああなってしまったのか。きっと知ったところで何もいいことはないんだろうとは思う。むしろ傷ついてしまうかもしれない。きっとお姉ちゃんはそれをわかっていたから、たとえ夢の中だろうと話そうとしなかったんだろう。でも私は知りたいし力になりたい。迷惑なのは分かってる。それでもやっぱり知りたいと思ってしまうのは、ただのわがままで、自己満足でしかなかった。
「わかった。じゃあ作戦を考えよっか」
そう言って美華は微笑んでくれた。どうやら私はかけがえのない友達に出会っていたみたいだ。
「まずは、その原因っていうのは、お姉さんから直接は教えてもらえなかったんだよね?」
「……うん」
「なんとなくわかったりはする?」
「いや、少し候補があるくらい、ほとんど分かんない状態と変わんないかも」
「……そっか、じゃあ誰か他に事情を知ってそうな人は」
「う~ん、やっぱりパパとママは知ってると思う。あ!おばあちゃんとおじいちゃんも知ってるかも!う~ん、あとは」
そこまで考えて今朝のことを思い出す。そういえば3年の教室を訪れたとき、お姉ちゃんを名前で呼んでいた人がいたっけ。
「お姉ちゃんの友達とか?」
「それだ!とも言えないな~、お姉さんがどんな交友関係をもってるのかもわかんないもんね。でもいい線いってるんじゃないかな。」
「そうかな?」
情報を整理していく美華とは反対に私はまだ作戦の方針が見えていなかった。
「いったんまとめてみよっか。まず、小景のパパとママね。このふたりは当然知ってると思う。けど、今まで小景に話す機会がいくらでもあったのに話してないんだから望みは薄そうだね。」
「……そうだね」
「じゃあ、おばあちゃんとおじいちゃんはどうだろう?小景がどれくらい知らないかっていうのをふたりが知らないならうまく聞き出せる可能性もあるんじゃないかな?それか案外普通に教えてくれるかもしれない」
おばあちゃんとおじいちゃんは確かに知っているかもしれない。
「お姉ちゃん、おばあちゃんとは連絡取ってたみたいだったから事情は詳しいだろうけど、私に話してくれるかな」
「まあ候補としては有力なんじゃないかな?他だとお姉さんの友達だね。友達から聞き出すならまずはお姉さんと仲直りして、お姉さん以外の3年生に顔を覚えてもらってから交友関係を探る必要がありそうね」
まずは交友関係から調べようとしている美華に対して、私はすでにひとりの候補者を思い浮かべていた。
「今日3年の教室に行ったときに、お姉ちゃんを名前で呼んでる人がいたんだ。」
「お!もう目星ついてんじゃん!じゃあその人と仲良くなるルートもありだね。」
「そうだね。じゃあ選択肢としてはおばあちゃんとお姉ちゃんの友達ってことになるのかな?」
「うん、でもどっちかだけにする必要もないし、両方探っていくってことでいいんじゃないかな?まぁでもその前に、小景がちゃんとお姉ちゃんと仲直りする必要があるんだけどね」
「……うっ。頑張ります」
「そうだよ、頑張って」
そう言って美華は私の背中をバンッと叩いたかと思うと、トーンを落としてつづけた。
「でもね?探りを入れてるってばれたら。多分お姉さん悲しむよ?」
「……うん、わかってる」
「そこまでして知る必要あるの?」
「わかんない。でもやっぱり知りたいよ」
「……そっか、わかった応援する。も~!小景は健気なんだから!かわいいなぁもう!」
美華は明るく振る舞って、私の髪をわしゃわしゃとかき回していた。今日だけでも大きな借りが美華にあるので、私は甘んじてわしゃわしゃを受け入れる。
「ありがと」
私は美華に聞こえないくらいの声でつぶやく。私は許してもらえないかもしれない恐怖を抱えながら、それでもひさしぶりにふたりで話す時間が持てたことへの期待を膨らませていた。




