第34話 バイトと家と優里と私
日曜日、小景の方は今、団体戦を頑張っている頃だろう。
私の方はというと、寝不足のままでシフトに入っていた。
昨日、優里の家から逃げ帰った私は、いろいろな感情がぐちゃぐちゃになってあまり眠れなかった。
「日向ちゃん?大丈夫?ぼーっとして」
「はい!」
同じシフトの木村さんに声をかけられて、初めて私の手が完全に止まっていたことに気が付いた。
木村さんは私を心配しながらも、お惣菜の計量とパック詰めの手は動かしたままだった。
「具合悪いんだったら早めに上がっちゃってもいいんじゃない?」
「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です」
「そう?無理しちゃだめよ?」
「はい、すみません」
そう言って黙々と作業の手を進める。木村さんは40代の主婦で、お子さんは私くらいの年齢らしい。もう手がかからないからとこうして休日にもシフトに入っているらしい。ここでバイトとして働き始めてもう2年以上経った私と、一番話してくれるのが木村さんだった。
「……木村さん」
「どうしたの?」
「私、昨日友達とけんかしちゃったんです」
「え!日向ちゃんけんかとかするんだ」
「いえ、はじめてです」
「そっか、どうしてけんかになったの?」
私は昨日のことを思い出しながら、かいつまんで木村さんに説明した。
優里のノートを見てしまったこと。そこに私の知らない小景とのことが書かれていたこと。問い詰めてもはぐらかされたこと。
ひと通り聞いたあと、木村さんが口を開く。
「えっと、つまりは『日向ちゃん経由での知り合いだった妹と友達が、日向ちゃんに隠れて仲良くなってることを知った』ってこと?」
「……多分そうです。結局友達は答えてくれませんでしたけど」
「日向ちゃんとしては、内緒にされたことが嫌だったの?それとも仲良くしてることが嫌なの?」
「ふたりが仲良くなるのは、嬉しいです。でも私に言えないような関わり方なんだとしたら嫌です」
「でも、日向ちゃんに言えない関係ってなんだろう?わざわざ仲いいことを隠すなんて」
私に対して気まずくて言えないような関係って何だろう?例えば――
「付き合ってる……とか?」
口からこぼれた自分の言葉に耳を疑った。いや、ないない。私の妹と親友が、私に隠れて付き合っているなんて。さすがにないよね?
「えぇ!そっか今は女の子同士ってのも全然あるのか~」
「で、でもそんなんじゃ、ないと思うんですけど……」
そう言いながら、今までを振り返ると思い当たる節はあった。優里はともかく、小景に関してはかなり優里に興味があるようだった。勉強会に優里を呼んで、連絡先を交換していた。そして私の知らないうちに、あの場所で何度も会っている。
かといって、優里の方にはそれっぽいアクションはなかったように見えたけど……いや、でもこの前、昼休み図書室に行ってた理由をはぐらかされたりしたな。
点と点が線になっていく。私は否定材料が欲しくて木村さんに尋ねる。
「でもそれだったらなんで、私に言ってくれないんですか?」
「だって友達からしたら親友の妹で、妹からしたらお姉ちゃんの親友なんでしょ?どっちからしても日向ちゃんの大切な人を奪っちゃってる、みたいな気がしてるんじゃない?」
「……」
「だったら、ふたりが話してくれるのを待ってあげたほうがいい気がするけどね。もしかして、日向ちゃん。その友達のこと好きだったり?」
「そっ、それは友達としては大好きですよ。わざわざ一緒の高校に進学したくらいですから。でも、今はやっぱり怒ってます。私はふたりが関係を隠してることを確信したうえで聞いたのに、それでもはぐらかして」
「やっぱり付き合ってるっていうのは、ちょっと照れちゃうもんなんじゃない?」
「……確かに、私が踏み込みすぎたのかもしれないですけど」
その後も、ひたすらお惣菜を詰めながら延々と小景と優里が付き合っている可能性について考えていた。
◇ ◇ ◇
夕方、バイトを終えた私はヘロヘロになりながら家路についた。寝不足と考え事で頭がくらくらする。今日はもう帰って寝てしまいたい。なんせ明日からテストが始まってしまう。
そもそも今日だって急遽シフトに入ることになってしまったけど、本来は家で勉強しているつもりだった。でも今日の頭の中じゃどのみち勉強は手につかなかった気もする。
そんないつもより重い足取りで家に帰った私を待っていたのは優里だった。まだ優里は私に気付いていない様子だった。私は建物から少し離れた場所で優里を観察する。優里には今日急遽シフトが入ったことを伝えていない。だとしたらかなりの時間待たせてしまっているのかもしれない。私は慌ててスマホを開いて確認する。
「日向、昨日のこと話したい」
LINEに届いていたメッセージの送信時刻は、2時間前になっていた。LINEで済ませる予定だったものを私が見てないから直接うちに来たのかな?だとしても1時間以上、うちの前で待たせてることになる。
待たせた。というのも少し違う気がするけど、罪悪感は感じてしまう。私はさっきよりさらに重くなった足取りで部屋に向かう。疲労と緊張で今にも倒れてしまいそうだ。部屋の前に着いたところで優里はようやく私に気が付いた。少しばつの悪そうに口を開く。
「……今日バイトだったんだ」
「うん、急に代わり頼まれちゃって」
気まずい。けんかというけんかをしてこなかった私たちはお互いに何から切り出せばいいのか、分からなかった。
「「あ、あの」」
意を決して話を切り出そうとしたのもふたり同時で、また気まずい空気が流れる。
「とりあえず、うち入る?」
気まずさに耐えかねた私は、いったん戦場を移す提案をした。優里もかるく「うん」とうなずいたことで、ひとまず玄関先でこれ以上気まずい空気が流れることはなくなった。
「お邪魔します」
けんかをしていても、優里はこういうところはしっかりしてるな。鍵を閉めるながら、先に部屋に入っていく優里を見て思った。そういえば私は昨日帰るとき「お邪魔しました」って言ってなかったっけ。あれ?そもそも、なんでけんかしたんだっけ?わたしがノートをみたから?ゆうりがはなしてくれないから?あれ?わたしはなにをいおうとしてたんだっけ?
「ゆうり」
「な、なに?」
「おじゃましました」
「……は?」




