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白い部屋と黒い過去  作者: 士ロ田
隠蔽と開示
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第32話 親友の部屋に優里と私

 小景こかげから大会の結果を聞いた私は、その苦しそうな声を救ってあげる方法が分からなかった。きっと選手としての小景の努力や苦難は、私なんかの言葉では表現できない。それに私はその場にすらいない。ただ隣にいてあげることすら、今の私にはしてあげられない。だから私は小景に美華みかちゃんと話すように言ったあと、美華ちゃんに電話をかけた。電話に出た美華ちゃんの声は、少し不安そうだった。


「もしもし、お姉さんですか?」

「美華ちゃんおつかれさま。今日は小景の大会見に行ってくれてるんだよね?ありがとう」

「いえ、そんな。それより小景が――」

「うん、知ってる。さっき電話もらったから。でもね、私じゃ部活での頑張りとか苦労って、分かってあげられないから、何もしてあげられなかったんだ。だからね、迷惑かもしれないけど、小景のこと任せてもいい?」

「……わかりました」

「うん、ありがと。小景は近くの公園で気持ちを落ち着けようとしてたみたいだから、会場に戻って美華ちゃんに会うように言っておいた。多分小景のこと探してくれてたよね。ごめんね。じゃあ小景のことよろしくね」


 私は通話を終えて、スマホをテーブルに置いた。今日は優里ゆうりの家で勉強会をしているんだけど、さっき優里が急に「ちょっとコンビニに行ってくる」なんて言いながら出て行ってしまった。


「私も少し休憩しようかな」


 私はひとり取り残された優里の部屋で、独り言をつぶやきながら立ち上がった。優里の部屋に私ひとりというのは少し落ち着かなくてその場をうろうろしてしまう。


 優里の部屋に初めて上がったのは、中学生のころだった。当時から綺麗に片付いた部屋にはあまり物は置かれてなくてすっきりしている。あの頃から変わったことと言えば、机の上に置いてある教科書のラインナップと、本棚に並んだ本の数くらいのものだった。


 そのとき、なんとなく机の上に並べられているノートの1冊に意識が向いた。なぜそのノートに視線が吸い込まれたのか分からないまま手に取った。頭では勝手に優里のノートを覗き見るなんてダメなことも分かっているし、直感的にもこのノートを開くべきじゃない気がしている。


 手に取ったノートの表紙には何も書かれていなかった。優里は普段使うノートには目的と名前を必ず書いている。目的といっても「数学」だったり、「英語」だったり教科が書かれていることがほとんどだ。1回だけ私が交換ノートをしようと過去言ったときは、表紙に「連絡」と書かれた学習ノートを渡されてドン引きしたことがある。


 そんな優里の、表紙に何も書かれていないノート。見た感じ新品というわけでもない。ますます触れちゃいけない気がする。


「……」


 今ならまだ引き返せる。そう思いながらも、私はノートを開く手を止められなかった。


◇ ◇ ◇


「ただいま~」


 小景から連絡をもらった私は、日向ひなたを部屋に置いて慌ててコンビニに向かった。別に外であればどこでもよかったけど、ちょうどいい言い訳が思いつかなくてコンビニにアイスを買いに行った。


 おそらく私がコンビニに行った間に、小景は日向に連絡をして慰めてもらったことだろう。普段はかなり小景のことを警戒している私だが、弱っているときにまで冷たくするような薄情者ではない。だからと言って何でも許すわけじゃないけど、これくらいの気は利かせてあげられる。


 コンビニで買ったふたり分のアイスを一度冷凍庫にしまって、ジュースを取り出して部屋に向かった。私は自室のドアを数回ノックする。この「自室に入ることに許可をもらう」行為が意外と気に入っていて、私が部屋から出たときは必ずノックして日向の許可をもらってから部屋に入るようにしている。


「日向?戻ったわよ」


 すこし間を置いてから日向の声が聞こえる。


「は~い。どうぞ」


 私は部屋に入って、床に腰を下ろす。日向が来たときは、小さなテーブルを床に出して、いつもそこでふたりで勉強している。さっきまで開かれていた教科書とノートはいったん片づけられて、完全に休憩モードになっている。私はジュースをコップに注いで日向に渡す。


「はい、どうぞ」

「ありがと」


 そう言って日向はコップを受け取る。私も自分のコップにジュースを注いで、そのほとんどを一気に飲んだ。6月の下旬の日中はもう夏といっても大差ないくらい暑かった。これからまだまだ暑くなるって言うんだからたまらない。


「ぷはぁ、暑かった。買ってきたアイスは冷凍庫にいったん入れておいたから、あとで食べましょ」

「うん、ありがと」

「1学期はやっぱテストの間隔短くて面倒ね」

「そうだね」

「そういえばあんたの妹はテスト前も部活やってたんでしょ?テストやばいんじゃないの?」


 さりげなく小景の話題を出して、小景が日向に連絡をしたかどうかを探ってみる。


◇ ◇ ◇


「そういえば()()()()()はテスト前も部活やってたんでしょ?テストやばいんじゃないの?」


 「あんたの妹」、優里が私とふたりでいるときに小景を指す言葉。小景がいるときには「小景さん」って言ってまだ気を遣っているみたいだった。そして()()()の中では「小景」だった。私には何が起きているのか分からなかった。


 だから、なんでこんなこと言っちゃったのかも私には分からなかった。


「それは、優里の方が詳しいんじゃない?」

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