第30話 県大会に私と美華①
県大会1日目。今日は地区予選の会場から離れた大きめのスポーツセンターに来ている。少し遠いこともあって、お姉ちゃんには応援に来なくていいと言っておいた。せっかくだし図々しくお願いしようかと思ったけど、頑張ってバイトしているお姉ちゃんに、無駄な出費はあまりさせたくなかった。
「小景~」
私を呼ぶ声がして、振り返るとそこには美華がいた。お姉ちゃんの代わりというわけではないけど、今日は美華が応援に来てくれている。
「美華、わざわざごめんね」
「いいのいいの!だって約束してたでしょ?『先に負けた方が、相手の応援に行くって』」
「そんなの真に受けなくてもいいのに」
「別にあんな約束しなくても来るつもりだったし、気にしないで」
「……そっか、ありがと」
美華にとっての高校生最初の大会は、先週で幕を下ろした。私たちにとってはまだ1年目で、来年も再来年も大会に出る機会はあるというのに、この前負けたことを話す美華からは、まるで最後の年だったかのような悔しさが滲んでいた。美華は1年生だからとか関係なく、今のチームとしての最後の大会に真剣に向き合っていたんだろう。
それに比べて私はかなりドライな気持ちだった。ダブルスを組んでいない私は、個人戦と団体戦の両方とも1対1の対戦でしかない。だから同じ学校の仲間の意識くらいはあるものの「チーム」というほど馴染めていない気がしている。どうしたら美華のようになることができるのか分からなくて、私は直接美華に尋ねてみた。
「美華って部活の先輩たちとすごく仲いいよね」
「え?どうしたの急に?でもまぁ、うん、結構仲いいかも」
「どうやったらそんなに仲良くなれるの?」
「う~ん、私は特別『こういうことしてるよ』って言うのはないんだけど、小景にしてあげられるアドバイスならあるよ」
「え、なになに?」
私向けのアドバイス。それはつまり私にはわかりやすい欠点があるってことだろう。その気になる触れ込みに私は飛びついた。
「それはねぇ、小景は踏み込まなさすぎ」
「え?」
言っている言葉の意味は分かるが、言われた意味は分からなかった。何せ私は過去、優里先輩に真逆のことを指摘されている。
「もっと正確に言うとね、興味のない相手に踏み込まなさすぎっていう方が正しいかもね。この間のお姉さんちでの勉強会でも思ったけど、優里先輩に対して取ってた態度と部活の先輩に取ってる態度。全然違うじゃん?」
言われて振り返ると思い当たる節がたくさん出てくる。記憶を掘り起こしてだんだん渋い顔になっていく私を横目に、美華は続けた。
「まぁ別にそのスタイルでもいいとは思うんだけどね。仲良くなりたいんだったらそれじゃ受け身すぎる」
「うっ、耳が痛い。確かにそうだね」
「そうだよ~。せっかくなんだし先輩に甘えちゃうくらいでいいんだよ~」
「それは恥ずかしいからやらないけど、もう少し私から話しかけたりしないとね。って言っても、私はそもそもそういうのが苦手だから個人競技を選んだのに」
「そういえばそんなこと言ってたね」
なんてアドバイスをもらいながら話していると、開会のアナウンスが流れ始めた。
「あ!そろそろ行かなきゃ。じゃあ美華、空き時間あったらそっちに行くから」
「りょーかい。頑張ってね」
そう言いながら美華はグーを突き出した。私も拳を握って美華の手に合わせる。
「よし、じゃあいってらっしゃい!」
「うん、また後でね!」
気合いを入れた私はコートへ、美華は応援席へそれぞれ歩き出した。
◇ ◇ ◇
私はひとりで会場の近くの公園に来ている。池の周りがぐるっと一周散歩コースとして舗装されていて、この時間はたくさんの人が散歩していた。
一緒に会場に来ていた先輩が言うには「運が悪かった」んだと。確かに相手は全国大会常連の3年だった。1年にしてはよく頑張ったと、顧問も言っていた。でも悔しいものは悔しい。顧問の「気持ちを切り替えて団体戦頑張ろう」的な話をひと通り聞いた後、私はこうして公園に逃げて来たってわけだ。
まだ気持ちの整理がついていない私は、優里先輩にメッセージを送った。最近、白い部屋の外でも一方的に連絡していたから、つい優里先輩を選んでしまった。
「先輩、私負けちゃった」
「負け」の文字をぼんやり眺めていたら、意外にも返事はすぐに来た。
「そう、お疲れ様。でも最初に言うのが私でよかったわけ?」
私は言い当てられた恥ずかしさを隠すために、わざときつい言葉を送った。
「何自惚れてるんですか?別に一番じゃないですよ」
自分が送った文を見返しながら「私性格悪いなぁ」なんて思っていると、先輩から写真が送られてきた。そこには優里先輩の部屋と思われる場所にいるお姉ちゃんが映っている。
「これは昼の写真ね。今日は日向、うちに来てるの。この前言ったでしょ勉強会するって」
つまり優里先輩はこう言いたいわけだ。「本来なら真っ先に連絡するはずのお姉ちゃんに、まだ報告していないことは、今のお姉ちゃんの態度を見れば分かる」と。そのまま何を返そうか悩んでいると電話がかかってきた。私は恐る恐る電話に出る。
「お疲れ様。大丈夫よ、今は私ひとりだから。これが終わったらすぐに日向に連絡入れなさい。私は知らなかったことにしておくから」
「……そんな気遣いいらないです」
ふてくされて答えた私に先輩は電話越しでも分かるほどのため息をついた。
「あんたねぇ、そういう悔しいとか悲しいとかを誤魔化して適当な相手で消費すると、あとあとつらいわよ。せっかくなんだから日向に泣きつきなさいよ。じゃあね、切るわよ」
「あっ、まって」
「頑張ったじゃない、お疲れ様」
そう言い残して通話は切られてしまった。トーク画面を見つめてぼんやりしていると、さっきまでの優里先輩のメッセージが消されていった。どうやら本当に聞いてないことにしてくれるらしい。私は意を決してお姉ちゃんに電話をかけた。数コール鳴ったあと、元気そうなお姉ちゃんの声が聞こえてきた。
「もしもし小景、どうしたの?」




