第23話 大会開けの小景と私
月曜日、私は少しテンションが高い。なんでかって言うと、昨日のバスケでは無事先輩たちの中で活躍することができたから。やっぱり試合をしているときが一番楽しい。そのうえ先輩たちの役に立てるんだから昨日はいいことだらけだった。今日の登校の足取りはいつもより軽い。
小景の方の大会に行けなかったことは少し心残りではあるけど、小景は小景でお姉さんたちが応援に来てくれてたみたいで満足そうだった。小景は私と違ってバド始めたのが中学校に入ってからだったんだけど、信じられないくらい強くなっていってる。昨日も県大会の切符を勝ち取ったってLINEが私のスマホに届いてた。
「おはよ~」
「あ、小池さんおはよう」
教室に入ってクラスの子と挨拶を交わしながら、席に向かう。私はこの、特定の個人に向けてない全体攻撃の挨拶をするのが好きだ。この挨拶が返ってくると私がこの空間で認められた存在になった気がするから。そう思うようになったのも、中学の部活のときの影響かもしれない。
私は小学校からバスケをしていた影響で中学では同学年の子たちより圧倒的に上手かった。その優越感を隠すこともなく過ごしていたら、あっという間に1年生の中で孤立してしまった。そのおかげで小景とは友達になれたんだけど、今はそれを反省している。
私は自分の席に荷物を置いて一息ついたあと、小景の席を見る。いつもなら私の登校を見つけるとすぐに私のところにやってくるのに、今日は来なかった。なんと今日の小景は自席で本を読んでいた。集中してそうだし邪魔しちゃ悪いかなとも思ったけど、私が来たことにも気が付かないのはちょっと悔しかったから、小景の席の前に座って声をかけた。
「小景、おはよ。何読んでるの?」
「あれ?美華!おはよう!ぜんぜん気が付かなかった。ごめんね」
「いいよいいよ、気にしないで」
「あぁ、読んでる本だったね。これこの間お姉ちゃんと遊びに行ったときに買ってもらったんだ」
あぁ、あの日か。私にとって、あの日の印象は日中よりも夜の方が強かったから、内心渋い顔をする。
「でも、小景が本読んでるところなんて初めて見たかも」
「でしょ、実際初めて。この本ね、今度映画化されるらしくて、お姉ちゃんは先に読んでから映画を見ようとしてるんだって。だから私も読むから一緒に映画行こって言ったら、じゃあ小説はプレゼントって買ってくれたんだ。だから頑張って読んでる」
そう話す小景の本に目をやる。可愛らしいはりねずみの栞がはさまれている箇所はまだまだ序盤で、買ってもらって2週間近く経っているにしては進んでいないように見える。
「そういえば、これまで学校で読んでるところ見かけなかったけど?」
「そうなの、家で一人の時に読もうって思ってたから、家でだけ読んでたんだけど、ぜんっぜん集中できなくて。それで優里先輩に相談したら、学校の隙間時間みたいに、終わりが決まってる時間の方が集中しやすいかもって教えてもらったから、実践してみてたところ」
「じゃあ、結構うまくいってそうだったね。なんせ私が来たことにも気が付かなかったくらいだし」
そう言ってわざと拗ねて見せる。小景はやれやれといった表情で乗ってくれる。
「ごめんって、でも実際結構いいかも。環境音っていうのかな?そういうのがあった方が集中できるタイプみたい」
「ふ~ん、じゃあこれから学校での小景は読書女子になるの?」
「そういう訳じゃないけど、これを読み切るまではそうなるかも」
「そっかぁ。ん?そういえば映画があるなら映画だけ見ればいいんじゃないの?」
私は思ったことを小景に質問した。だってそっちの方がタイパがいい気がする。すると小景はその質問を「待ってました」と言わんばかりの表情をして答えた。
「それ、私も言ったよ。そしたら『小説と映画で2回楽しめるからお得』みたいなこと言ってた」
「そういうもんなんだ」
「そういうもんらしい。私も最初は全く分かんなかったんだけどね。でも今はちょっとわかるかも。読み進めていくと、登場人物にイメージで声を当てたり、見た目を想像したりしていくから、私だけの世界ができてるんだよね。これが映画見てからだとその俳優とかに置き換わっちゃうから、小説を先にって気持ちも今なら分かる」
なるほど、確かにその通りかも。私もアニメより先に漫画を読むときは勝手に声をイメージして読んでるし、アニメから入ったら漫画の声は完全にアニメに引っ張られてしまう。
「なるほどね、確かにそう言われるとそうかも」
「でしょ、だからこれはこれでいいなって思う。実際『コスパが~』とか『タイパが~』とか言ったらあれだろうけど。そもそも読書にタイパとか言ってたら、誰かに怒られそうだし」
「お姉さんとか優里先輩には絶対言えないね。そういえばその本ってどんなジャンル?」
「恋愛系だね、身分違いのふたりが困難に立ち向かう!みたいな」
そっか、恋愛系の小説か。ちょっと待って、てことは小景とお姉さんは恋愛系の映画をふたりで見に行くんだ。それってもはやデートでは?そんな思考に支配された私は、とりあえずデートの時期を探る。
「そっか、その映画っていつから始まるの?」
「えっと、たしか夏休みくらいだったはずだから、まだ結構先だよ。でも家で読むペースじゃ1年経っても読み終わる気がしなくて、色々試そうとしてたの」
「……なるほど」
そっか、夏休みに映画デートかぁ。いいなぁ。じゃない、そもそもデートではないし、ふたりは仲いい姉妹だった。私が恋愛脳すぎるんだ。私は邪念を振り払うように首を左右に振った。小景は私に「何してるんだ?」って視線を向けていた。
「あ、そういえば美華って今週末もバスケだっけ?」
「うん、まだまだ勝っていくよ」
「そっか、お互い頑張んないとね」
「うん、先に負けちゃった方が、相手の応援に行くってことで」
「なんか、罰ゲームみたいでいやだ」
なんて話しているうちに、予鈴が鳴った。私は椅子をもとに戻して、自席に戻る。今日の小景を見ていると、やっぱりこの前の泣いてる姿は夢だったんじゃないかと思ってしまう。席に戻ってスマホを開くと小景からメッセージが届いていた。
「そういえば、面白いこと思いついたんだ」




