第22話 大会の後に私と日向
大会が終わって、選手もほとんどいなくなってしまったスポーツセンター。日向と私は日向の妹の部活のミーティングが終わるのを待っていた。外で待っている私たちに、もうすぐ完全に沈んでしまう夕日が差している。
結局、妹は宣言通りBブロックを1位で通過した。大会序盤のように圧倒するということは減っていったが、結局今日のところは、負ける姿を見ることはなかった。
「あんたの妹、ほんとに勝っちゃったわね」
「うん、小景ってやっぱすごいんだね」
「……そうね、あんた明日以降の大会はどうするの?」
「さすがに遠くにはついていけないかもしれないけど、今日みたいに近かったらまた行きたいな」
「そう、悪いけど私は全部にはついていけないわよ」
「全部にはね、一部にはついてきてくれるんだ」
「……まぁ、暇だったらね」
私は少し恥ずかしくなってそっぽを向いた。恥ずかしさをごまかすように妹の話題に戻す。
「にしてもあんなに強いとはね。寮に住んでるからスポーツ特待ってことはわかってたけど、寮生ってみんなあのレベルなのかしらね?」
「確かに、もしそうなら美華ちゃんもバスケあれくらい強いのかな?」
「かもね、私たち偉そうに勉強教えてたのが今になって恥ずかしくなってくるわ、完全にあっちの方が上だもの」
「そんな上とか下とか……って言いたいけどさすがに感じちゃうね、どっちがより期待されているかって」
「ごめん、そこまで暗い話をするつもりじゃなかったわ、あっちがもっと偉そうでも文句言えないわね、くらいの上って意味よ」
「わかってる。でもちょっと妬いちゃった自分が嫌になっただけ」
「珍しいわね」
日向がそういうマイナスの感情を口にすることは珍しい。良くも悪くも日向は一旦感情を飲み込むことが多い。その真意を知りたくて私は日向の言葉を待つ。
「さっき、『勝てる』って言ってほしいって言われたの見てたでしょ?」
「えぇ見てたわ」
「あのときにね、私思ったんだ。小景のこと全然分かってあげられてないんだなって。私ももっと知らなきゃなって」
「いいことじゃない、なんで『妬ける』になるのよ」
「でも分かってないのも当然だよね。小景がバドミントンを始めたのは中学からで、私がいなくなってからも続けてたから、今の小景がある。小景が変わっていく2年間に私はいなかったんだから」
言いたいことは分かった。要するに日向が連絡を絶っている間に成長して、周りから期待されるようになった妹に、後ろ暗い感情を持ってしまった、というところだろう。
気持ちはわかってあげられるつもりだ。自分がひどい目にあって、今までの生活を追われている間に妹は才能を見出されて、多くの期待を背負う立場になった。はっきり言って気分のいいものではないだろう。日向が優しい人でなかったら、「妬く」ではなく「憎い」になってしまってもおかしくない。でも、それじゃあ日向が傷つくばっかりだ。だから私は少し悪知恵を働かせた。
「じゃあ妹に『今すぐバドミントンなんかやめて、私だけの妹に戻って』って言ってみる?」
「っ!別にそんな言い方しなくたっていいじゃん」
日向の顔には明らかに怒りが滲んでいた。震えている両目は真っすぐ私をとらえていた。私は気にせず続ける。
「日向は今、自分が苦しい時に、のびのび成長していった妹が憎いんじゃない?だったら妹が伸びた分を奪ってしまえばいいじゃない」
日向はさっき「妹が妬ましい」と言ったが、私の予想は少し違っている。
「……違う」
「なんで?別に妬んだっていいじゃない?」
「え?」
「別に妹の方が才能に恵まれて妬ましいなんて、世の中にありふれているし、別に悪いことじゃないと思うわ」
「……」
「でも、妬みの相手が違うんじゃないかしら?」
「相手?」
「そう。もちろん妹に対して少し妬ましく思ってるとは思う。それよりも、日向は、妹の成長を身近で一緒に見守れる立場に自分がいなかったことが悔しくて、その輪にいた人たちが妬ましいんだと思うわ」
「……」
「だから、あんたの嫉妬の全部が妹に向いているわけじゃない。でも、残りの感情を向ける先が分からなくて、残りも小景に向けてしまいそうな自分が嫌になったんだと思う」
そこまで言って私は両腕を広げる。私の伝えたかったことは伝わっただろうか。うまく伝わってなかったら、嫌われたって文句は言えないな。
「ほら、日向」
日向はまだ納得いっていない様子で私の腕の中におさまる。私は軽く抱きながら囁く。
「日向は優しすぎるのよ。私、前に言ったでしょ。『妹だからって無理して関わる必要なんてない』って。でも、日向は優しいから妹にちゃんと向き合ってる。さっきの私のイジワルにちゃんと怒ってあげられる。親友としては誇らしいけど、心配にもなるわ。本当は妹とも関わらないでいてほしかった。でも、もう向き合うって決めちゃったんだもんね」
「うん」
「それなら、私がしてあげられることは日向の愚痴を聞いてあげるくらいしか残ってないわ。でも一応もう一回言っとくわ。家族だからって無理に仲良くやる必要はない。いざとなったら私に頼って」
私は日向から離れる。きっと私の顔は緊張と恥ずかしさで真っ赤だったはずだけど、夕日が隠してくれることを願う。
「……はい、おしまい!なんか恥ずかしいことをいっぱい言ってしまったわ」
「ううん、ありがと」
「私が受け入れられてんのもあんたが優しいおかげなのよ。普通のコミュニティに私がいたら、速攻でハブられるわ」
「それは違うよ。私は優里に救われてるよ」
「っ、ありがと」
私と日向は顔を合わせて微笑み合う。夕日に照らされた日向は私より赤く見えた。




