第20話 答えと私と日向
「何がきっかけで日向と妹は仲直りすることになったの?」
私はとうとう日向に直接答えを聞くことにした。日向は妹が入学してきたときに、1度だけ会いに行っていた。そのときに開いた距離を実感してからというもの、あの日まで日向からは1度も妹に関わるアクションはなかった。少なくとも私にはそう見えていた。
しかし、妹はある日急に、朝一番に3年の教室に謝りに来て、日向もそうなることにどこか納得しているようだった。連絡先を改めて交換したのはその後だと言っていたことからも、連絡を取り合っていたとも思えない。
もう完全にお手上げだった。「言いたくなかったら言わなくてもいいよ」とは続けられず、私は日向が口を開くのを待っていた。6月のじめっとした空気が、晴れているのに重さを私に感じさせる。
「う~ん。私も正直よくわかってないんだけどね」
はぐらかされている?そう思ったが、日向に限ってそれはない、と思いたい。
私たちはすこしの間、そのまま無言で歩き続け、気がつけばコンビニまでたどり着いていた。ふたりは店内に入ることはなく、駐車場の車止めに軽く体重を預けた。
「あのね、学校にある噂って知ってる?」
噂?日向はいったい何の話をしようとしているんだ?先が全く予想できないまま私は首を横に振る。
「優里はそういうのあんまり興味ないもんね。まぁ私も知らなかったんだけど」
「待って。何の話をしてるの?」
不安になった私は日向の話を遮る。私は仲直りのきっかけを聞いたはずだ。それなのに今は学校の噂だなんだと。あっけにとられている私を置いて日向は答える。
「小景との仲直りのきっかけの話だよ。学校の裏手にね、神社があるんだって。私は結局行ってないけど。そこでね、相手を思ってお参りしたら、夢でその相手とふたりきりの場所にいける、っていう噂」
意味不明な話をされながらも私は1つのありえない答えにたどり着いた。何一つ理解できていないまま、言葉だけが無意識に口から零れる。
「その噂はホンモノで、妹はそれを日向相手に試した?」
自分で言ったものの、未だに頭では受け入れきれていない。私は不正解を期待しながら日向の判定を待つ。すると日向はにっこりと笑って答えた。
「正解、流石名探偵」
からかうような日向の言葉に対して、「だから名探偵じゃないってば」なんていう普段の軽口は出てこなかった。唖然としている私を置いて日向は話を続ける。
「私もファミレスで小景にそんな話をされたときは流石に訳わかんなかったね。でも実際既に経験しちゃってたから、もうそういうものなんだとして納得しちゃった」
「ちょ、ちょっとまって」
日向に手のひらを向けて話を一度遮る。現実感が無くて逆に冷めてきた頭で考えなおす。もうこの際、噂というのは信じるしかないんだろう。『夢で望んだ相手とふたりきりになれる』というお呪いがある。そこまでは分かった。そしてそれを妹は日向に使ったわけだ。そして夢でふたりきりになった。
それがなぜ謝りに来ることになる?夢の中で仲直りが済んだのなら翌日から普通に会えばいい。そりゃ私の目線では急に仲直りした姉妹が完成するわけだから違和感はあるかもしれないが、当人たちには筋が通っている。
でも、実際はそうはならなかった。夢の中では仲直りどころか、翌朝一番に、学年の違う教室までわざわざ訪れて謝らないといけないようなことになってしまった。
なるほどわかってきた。きっと小景は夢の中で知らず知らずのうちに日向の地雷を踏んでしまったんだろう。そして地雷を踏んだことについての謝罪をするためにあの日、教室に現れた。地雷というのは中学時代を思い出す何かで、小景は私を探る過程で、手掛かりを得ようとしている、といったところか。
だとしても私から小景に話すことはないはずだ、むしろ夢の中で何があったのかをこっちが知りたいくらいだ。とりあえずこの話はもう十分だ。私から聞いておいてあれだが、日向もあまり思い出したくない部分があるはずだ。私は突き出していた手をおろして日向の方を向く。
「わかった。もう十分よ。早いとこ飲み物買って戻りましょ」
「ふふっ」
日向が笑う。なんで笑ったのかがわからず、理由を尋ねる。
「何かおかしなことでもあった?」
「うん。優里がおかしくって」
「私?」
「だって普通こんな話、すっと信じないよ。それなのにちょっと悩んだかと思えば『わかった』って。将来悪い人に騙されるんじゃない?」
「はぁ、何を言い出すかと思えば。……別に何でも信じるわけじゃないわよ。日向が言ったから信じるの、そのくらいの付き合いはあるでしょ?私たち」
「……なんか照れるね」
「――っ、……確かに恥ずかしいこと言っちゃったわ。ほらもう行くわよ」
コンビニで飲み物を買って、私たちは来た道を戻る。帰り道は行きとは違い、なんてことのない日常会話を繰り広げた。
スポーツセンターが目の前に迫ってくると、日向はわざとらしく気合いを入れ直して見せた。
「よ~し、小景の出番もうすぐだよね!」
「いや、まだそんなに時間経ってないわよ」
「え~、じゃあまた2階で待機か~」
これまた大袈裟に肩を落として見せる日向が可愛らしくて、つい頬が緩んでしまう。やっぱり私には今の日常が大切らしい。
「……ねぇ、日向」
「何?」
「なにか困ったことがあったら、いつでも相談に乗るわ。だから、また家に遊びにいらっしゃい」
「……なんかおばさんくさい」
「――なんてこと言うのよ!」
「ごめんごめん、でもありがと」
「……はぁ、ほらっ。行きましょ。さっき妹の服装も見れたから次は探しやすいわよ」
ふたりはスポーツセンターに戻ってトーナメント表を見る。思ったより順調に進んでいるみたいで、妹の出番はもうすぐらしい。今日のところは、ただ純粋に「日向の妹」を応援しよう。




