第15話 ショッピングモールに私と姉
手を繋いだ私たちは、2階のスポーツショップに来ていた。ぎゅっと握られた手は少し冷たく感じる。お姉ちゃんは今、頑張ってくれている。それなら、私もさっきの反省会をしている場合じゃない。私は首を左右に振って暗い気持ちを振り払う。
さてと、スポーツショップにはバドの用品を買いに来たんだった。大会前に気合いを入れるためにグリップを新しく巻き直そうと思ってる。バド用品のコーナーに向かっていると、お姉ちゃんが口を開く。
「私あんまり詳しくないんだけど、グリップを大会前に変えたら手に馴染まなくなるとかってないの?」
「確かにそういう人もいるけど、私は新しくグリップを巻き直した方が、いい方向に進んだ気がして気合いが入るっていうか。私に合ってるみたい」
「そっか、あ!ほらあそこバドミントンのコーナーだ」
そう言いながらバド用品のコーナーに足を踏み入れる。
「うわぁ、こうやって見るとグリップって結構種類あるんだね」
「材質だったり、色だったり、厚さだったり。私がいっつも使ってるのはウェットタイプっていう手に吸い付く感じのやつから選んでるんだ。ほかにもサラサラしてるやつとかタオル生地のやつとかあるんだ」
お姉ちゃんが私の世界を知ろうとしてくれていることが嬉しくて、色々語ってしまう。
「お姉ちゃんも始めてみる?」
「え~、私運動はからっきしだよ、小景も知ってるでしょ」
「まぁ確かに知ってるけど、ほら程よい運動ってことで」
「そもそも相手がいるでしょ。一緒にやる人いないよ」
「私がいるじゃん」
「え~、ボコボコにされちゃう」
「しないよ!バドミントンは試合だけじゃないでしょ!そりゃ試合したいって言うならボコボコにするかもだけど……」
「あはは、正直だね。シューズは高校の運動靴くらいでも大丈夫なの?」
「うん、全然大丈夫だよ。ラケットも私の余ってるのあげるよ」
「すごい勢いで外堀が埋められてる、わかった。小景の大会が終わったら一緒にしよっか。私もいい運動になるよね」
やった、思ってもない収穫を得てしまった。私は口元がにやけるのを感じながらグリップと予備のシャトルを手に取る。
「よし、私の欲しいものはおしまい。お会計済ませてくるね」
「わかった。先に外で待ってる」
そう言いながら私は繋いでいた手を解いてレジに向かう。少し名残惜しいけどこのままレジに行くわけにもいかない。急いで会計を済ませ外で待っているお姉ちゃんのもとに向かう。
「ごめん、お待たせ!」
「ううん、次はどこにいこっか?」
「お姉ちゃんはどこか行きたいとこないの?次はお姉ちゃんの番」
「う~ん、じゃあ本屋さん行こうかな、じゃあ――」
そう言ってお姉ちゃんは私の手に手を伸ばす。私はさっきの光景を思い出してとっさに手を引いた。さっきまでは無理をして手を繋いでくれていた。もう十分、今日の思い出は貰ってる。「大丈夫だよ」そう私が言い出すより先にお姉ちゃんが――
「無理してないよ。ほら、手、出して」
まるで心を読まれたようなお姉ちゃんの発言に、私はたじろぎながら手をゆっくり差し出す。お姉ちゃんはその手を掴むとさっきより深く握って歩き出す。
「ほら、なんともないでしょ?」
そう言って笑いかけるお姉ちゃんに思わず見惚れてしまう。手を引くように歩き出したお姉ちゃんについていきながら改めて繋がれた手を見る。
さっきよりしっかりと繋がれた手。さっきまでのお姉ちゃんの手が私の手を握る形ではなくお互いの手のひら同士を合わせた形。私とお姉ちゃんの指を互いに交わらせた形。つまりは恋人繋ぎというやつだ。
冷静に状況を理解していくほど、私の顔は熱くなる。女の子同士だし、恋人繋ぎぐらいフツーだし、仲のいい姉妹同士ならなおさら問題ないはず。そう考える頭に反して私の胸は高鳴っていく。繋がれた手を見つめているうちに私は本屋にたどり着いていた。
「ほら、着いたよ。……ってどうしたの小景?」
「え?あ、いやなんでもない」
お姉ちゃんの声で現実に引き戻される。お姉ちゃんは心配そうな顔をして私を見ていた。
「顔赤いけど、もしかして具合悪い?」
「いや、ほんとに大丈夫だから」
こんなテンプレみたいなことを聞かれるのも恥ずかしい、恥ずかしさを誤魔化すためにお姉ちゃんに話を振る。
「そういえば、何を見に来たの?」
「もうすぐ映画化される小説があってね、映画の公開前に読んじゃいたくって」
「へぇ、でもそれって映画だけ見るじゃだめなの?」
私は素直に思ったことを口にする。あまり本を読まない私にとってそれは二度手間に感じてしまう。
「う~ん、それは人によるんじゃないかな。映画を見てから小説を読む人もいるだろうし、映画だけの人も、逆に小説だけの人もいる。でもね、私は小説を読んでから映画を見るようにしてる。小説でイメージした世界と映像化した世界で同じ作品を2回初体験できるから。別に他の方法を否定するわけじゃないんだけど、私はそれが好き」
そう言いながら、お姉ちゃんは少し恥ずかしそうに微笑んで続けた。
「偉そうに語っちゃったけど、私にとってはそれが一番楽しめるってだけ。ウェットタイプのグリップと一緒。それが一番自分に馴染むから、ずっとそれを続けてるってだけなんだよ」
「そっか、じゃあ私もその小説買う」
「え?そんな無理して合わせてくれなくてもいいよ」
気を遣ってくれたはずのお姉ちゃんに少し線を引かれた気がしてムッとして続ける。
「無理してない、寮に帰ってもやることなかったし、私も読んでみたい。……それで……その、一緒に映画も見に行こうよ」
こっちが本来の狙い。未来の予定を少しでも多く準備しておきたかった。これで大会、バドミントン、映画、たくさんの思い出を共有することができる。
「そっか、わかった。じゃあせっかくだし私がプレゼントするよ」
「そんな、悪いよ。私が自分で買うって」
「いいのいいの。この小説も私が読みたい本だし。じゃあ買ってくるからちょっと待ってて」
そう言ってお姉ちゃんは手を解いてレジに向かった。私はその姿をまだ温かい手の温度を感じながら見つめていた。




