第13話 梅雨に優里と私
雨、梅雨、私はこの時期が嫌いではない。もとより活発な性格じゃないこともあって、快晴の方が気分が落ちるくらいだった。
テストが終わってから1週間が経った。小景は平均点より少し高いくらいの成績だったらしい。中学の頃の小景は「勉強なんて知らない!今はバドだ!」って感じであまり褒められた成績じゃなかったと記憶している。ぜひ高校からでも文武両道を歩んでほしい。「文」は普通でも「武」が壊滅的な私は自分を棚に上げて、そんなことを考えながら外を眺めていた。
今日はバイトが休みだったので優里と雑談でも、と思っていたんだけど、どうやら優里は少し先生に用事があるみたいで、私はこうして教室で1人待ちぼうけを食らいながら、ぼんやりと最近の出来事を振り返る。
小景と仲直りをしてひと月が経とうとしていた。とは言っても私の日常はほとんど変わっていない。テスト期間が挟まって交流が少なかったせいかとも思ったけど、仮にテスト期間じゃなくても小景は部活で忙しいだろう。とはいえ何も変わっていないという訳でもなかった。小さな変化として、私は前よりスマホを開くことが多くなった。理由は単純で、小景が事あるごとに私に連絡を入れてくるから。優里は逐一連絡を寄こすタイプではないし、他に連絡を取る相手もいなかった私にとって、こういった形で人の日常が共有される体験は思ったよりいいものだった。
そんな折、私は小景から遊びに誘われた。特に目的があるわけじゃなく、ただ近所のショッピングモールを散策したい様子だった。休日も部活漬けの小景にとって学校と寮以外はほぼ未開の地となっているらしい。日曜日はちょうど私もシフトを入れていなかったので快く小景の誘いに乗ることにした。当日は何を着ていこうかなんて考えていると、教室のドアが開かれ、優里が帰ってきた。
「日向、待たせたわね」
「ううん、別に待ってないよ」
「そう、ならよかった」
そう言いながら優里は、私の前の席の椅子をこちらに回して座った。
「部活はいいの?」
「別にいいのよ、文芸部とは言っても何かを熱心に書いたりする部じゃないから」
「そういうものなんだ」
「そういうもんよ」
優里はそういったいわゆる「創作活動」には興味がないらしい。優里だったら小説くらい書けそうなものだけど。
「あんた今『優里なら書けそう』とか思ったでしょ。意外と大変なのよ、創作って」
「え?なんで?」
思ってたことがばれたんだろう?
「思うところありげな感じで斜め上向いてたからよ、『顔に書いてある』の見本みたいだったわ」
ズバズバ当てられる。まるで心でも読まれているようだった。
「た、探偵さん面白い推理だ。小説家にでもなったらどうだ」
「探偵にも小説家にもならないわよ、ふふっ」
ひと通りの茶番を終え一息ついてから私は口を開く。
「そういえばね、週末に小景と出かけるんだ」
「へぇ、それはよかったじゃない?」
「感想それだけ?」
「他に何を言うのよ、『私の日向が~』とか言ってハンカチを噛みしめてればいいわけ?」
「いや、そうじゃないけど。『私も誘ってよ』みたいな?」
「せっかくの姉妹水入らずだってのにわざわざ邪魔するような真似しないわよ」
「……そっか」
私は少し肩を落とす。それを見た優里は少しばつが悪そうにしながら話を続ける。
「で?どこに行くの?」
「近くのショッピングモールにね、ほら小景って基本的に部活ばっかりだからあんまりこの周辺のこと知らないんだって」
それを聞いた優里は少し眉を顰めた。そして少し考えたあと口を開く。
「あんたねぇ……それほんとに信じたの?」
「え?どういうこと?」
「実家から寮に引っ越したかもしれないけど、別に遠くから越してきたわけでもないのよ?確かに住宅街とかは知らないだろうけど、流石にショッピングモールくらいは高校入学より前に行ったことくらいあるわよ。なんならあんたら一応家族でしょ?あんたは来たことなかったわけ?」
「確かに、あるけど。じゃあどういう――」
「そこは自分で考えなさい」
「え~」
私は大きめのリアクションで不服を訴えてから考える。わざわざ全然知らないってことにする理由……ちっとも思いつかない。私がうんうん唸っていると見かねた優里が口をはさむ。
「今回だけよ。ヒントをあげる。あくまで確証のない推測だけど」
そう言いながら優里は私のカバンのポケットを指さす。釣られて視線を向けた先にはスマホが入っている。私がそれを取り出すのを待って優里は続ける。
「日向と小景、ふたりともそれぞれ忙しくて直接は会ってないはずよね?」
「うん、そうだね。最後に会ったのはそれこそ勉強会のとき」
「1年の教室と3年の教室はまあまあ離れてるし放課後はすぐ部活とバイトだろうし仕方ないわね。そうなると約束はどうやって取り付けたの?」
「それはもう、LINEで」
「そうよね、じゃあなんであんたは小景がショッピングモールのことをあんまり知らないと思ったの?」
「それはもう、LINEで」
「そう、そのはずよね。普通だったら実家からそこまで離れているわけでもないショッピングモールのことを知らないって思わないものね。でもそう信じたってことはそう書いてあったから、違う?」
私は改めてLINEの内容を見返す。
「お姉ちゃん、今度の日曜日空いてる?」
「うん、ちょうど私もバイト休みだよ」
「そっか!よかったら近くのショッピングモール行かない?私ここら辺のこと詳しくなくて、お姉ちゃんに案内してほしいかも」
「わかった!まかせて!」
確かに書いてある。これは推理でなんとかなる範疇なんだろうか。私はトーク画面を優里に向ける。
「ちょ、ちょっとあんまりプライベートな画面は人に見せないほうがいいわよ。でも、まぁ予想通りね。そしてほら、答えも書いてある」
そう言って、優里が画面を指さす。私も画面に視線を向ける。
「そっか!よかったら近くのショッピングモール行かない?私ここら辺のこと詳しくなくて、お姉ちゃんに案内してほしいかも」
「ほら、そういうことよ。妹はただ姉に甘えたいってだけ。手を引いて連れていってほしいだけ」
「なるほど、流石名探偵」
「だから探偵じゃないわよ」
そう言って、優里は席を立つ。こちらに向けていた椅子をもとの場所に戻して私に向き直って、少し恥ずかしそうに言う。
「ほら、今日はもう帰るわよワトソン君」
「やっぱり探偵じゃん」




