第11話 お姉ちゃんの部屋に4人
勉強会は順調に進んでいった。普段はすぐにだらけちゃう私と美華も、お姉ちゃんと優里先輩に見てもらっている緊張感のおかげで集中して取り組むことができた。
それに私達だけで勉強するときのあるある「どちらもわからない」がないことも勉強の効率を上げていた。やっぱりお姉ちゃんはすごい、私は3年になったときに1年の範囲をちゃんと覚えていられる自信はない。
さらに意外だったことといえば優里先輩、先輩は教えるのがすごく上手い。暗記系というよりは理論系、考え方や見方をこちらが気付けるように段階的に導いてくれる。
「もう漢字の書き取り嫌い!ちょっと休憩!」
となりで美華が音を上げていた。国語の先生からはテスト期間に漢字の書き取りの宿題が出されている。書き取りの宿題は私も好きじゃない。けどなんだかんだで一番私の性にあっている気もする。お手洗いに立った美華につられて私もペンを置く。1年組の緊張の糸が切れたことに気が付いた優里先輩も手を止めた。視線を上げた先輩と目が合うと先輩は目線でお姉ちゃんを指しながら小声で呟く。
「そっとしときなさいよ」
優里先輩の視線につられて横を向くと、ウトウトしているお姉ちゃんがいた。先輩はお姉ちゃんを見ながらほぼ独り言のように私に言葉を続けた。その目は優しくも悲しくも私の目には映った。
「あんたが勉強教えてほしいって聞いてから忙しそうにしてたのよ。日向はずっと頑張ってる」
「はい、分かってます」
「解ってないわ。でも――」
お姉ちゃんに向けていた温かい目を私に向けた。その目はさっきより鋭く感じる。先輩が続きを話そうとしたとき――
――ガチャ
お手洗いの扉を開ける音と共に美華が部屋に戻ってくる。その音でお姉ちゃんの意識ははっきりしたみたいだった。寝ぼけ眼をこすりながら私たちを見ている。
「あっ、ごめんなさい、お姉さん起こしちゃいました?」
「……ん、こっちこそごめん、寝ちゃってたみたい」
「別に気にしないわよ。ねぇ?」
優里先輩はそういうと私に同意を求めてきた。さっきの話はもうする気がない。という意思表示にも見える。
「うん、私も美華も漢字を書き続けるマシーンになってたから気にしないで!」
「そっか、ってもう結構いい時間だ」
言われて時計を見ると8時を回ろうとしていた。すごい、私がこんな長時間集中できていたなんて。なんて感心していると――
「折角だし夜ご飯食べていく?簡単なものでよければ作るよ?」
お姉ちゃんの料理?思わず私は背筋が伸びる。優里先輩はその様子に気が付いてか、ため息をつきながらお姉ちゃんに返事をした。
「私は遠慮しておくわ、別にそんな気を遣ってくれなくていいわよ」
「そう?別に気にしなくていいのに」
「私が気にするのよ」
そう言いきって優里先輩は教科書を片付け始めた。私はお姉ちゃんの手料理の魔力をぐっとこらえて優里先輩に賛同した。
「うん、今からってなったら遅くなっちゃうしお姉ちゃんも大変だろうから大丈夫。ありがとねお姉ちゃん」
「そっか、美華ちゃんも?」
「はい、私もお気持ちだけってことで」
「そっか~じゃあ今日は解散かな」
「そうね、日向もお疲れ様」
「うん!みんなおつかれ!」
私は後ろ髪を引かれる思いで勉強道具を片付ける。一足先に片付けを終えた優里先輩はスマホを開いていた。かと思うと少し慌てた様子で私たちに告げた。
「ごめんなさい、私先に失礼するわ。日向今日は本当にありがとね。また明日」
「わかった、また明日ね」
「小景さんと美華さんもお疲れ様、勉強頑張って」
「「ありがとうございました先輩」」
挨拶を済ませた優里先輩は一足先に帰っていった。いったいどうしたんだろう?まさか私たちと一緒に帰るのが気まずいとか?流石にそれはないか。
片付けを終えた3人は玄関に立っていた。
「お姉さん今日はありがとうございました。今度は勉強だけじゃなく遊びにも行きましょ!」
「いいね、テストが終わったらどこか行きたいね。じゃあ2人ともテスト頑張ってね」
「うん、まかせてお姉ちゃん!」
「ほんとにお見送りいらない?」
「大丈夫ですって。私たち寮に帰るだけですから」
「そっか、じゃあ気を付けてね」
「「おじゃましました」」
「また来てね~」
お姉ちゃんに別れを告げて私と美華は寮へ歩き出した。
◇ ◇ ◇
勉強会の帰り道、私と小景は寮までの道を並んで歩く。初めてお姉さんを見たけどとても妹に秘密を隠しているようには見えなかった。
「お姉さん、小景が語ってた通りすごく優しそうな人だった。それにすごく美人だね」
「でしょ!」
「小景はどっちかって言うとかわいい系だったから、ちょっとイメージと違くてびっくりしちゃった。それに優里先輩もちょっとツンってしてるのに教え方すっごく丁寧だったね」
「……優里先輩、優しい人だったね」
小景は何やら優里先輩に思うところがあるようだった。
◇ ◇ ◇
みんなが帰った後、私はテーブルの上に残ったお菓子を片付けていた。今日はすごく楽しかったな。優里と2人の勉強会はお互い分からないところは殆どないから、黙々とそれぞれの対策を進めるだけになることが多い。それが楽しくないわけじゃないけど、今回みたいなのも内心憧れがあった。私のわがままに優里も付き合わせちゃったな。
私は優里にお礼の連絡を入れ夕飯の用意に取りかかった。
◇ ◇ ◇
スマホに通知が来ていることに私が気が付いたのは自宅に着いてからだった。
「今日は妹達の面倒を見てくれてありがとう」
正直今日はかなり疲れた。これも日向のためになるのなら頑張った甲斐もあるというものだ。
「気にしないで、私も結構楽しかったから」
これは嘘じゃない。心労は多かったが本当に楽しかった。だからこそ、この日常は絶対に守りたい。絶対に。私の最悪な仮説が当たっていた場合、小景は日向の過去に私を通じて踏み入ろうとしている。それは私も含め誰も幸せにならない。
「考えすぎか……」
「どうしたのお姉ちゃん?こわい顔してる」
「ううん、何でもないわ。ごめんね夜ご飯遅くなって」
「お母さん急に帰るの遅くなるって言うんだもん。仕方ないよ」
眉間にしわを作っていた私を心配した大樹に微笑みながら頭をなで、私は夕食の支度を始めた。




