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まだ名もなき怪物達 第3部ー断翼の誓ー  作者: HANA


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第16話 走れ

通路の奥へ進むほど、地下の空気は重くなっていった。

熱い。

酸素が薄い。

壁の亀裂は増え続け、床すら微かに揺れている。

「……マジで最悪だな」

奏が呟くその声にもう余裕は無かった。

蒼真は先頭を歩く。

右腕は垂れたまま、それでも足は止まらない。

「隊長」

雨宮が低く声を落とした。

ライトの先。

崩れた鉄骨の向こうに、人影が見える。

「……居た」

蒼真は即座に駆け寄る。

瓦礫の奥に作業員が二人。

そのうち一人は完全に意識が無い。

もう一人も呼吸が浅い。

「白石」

無線を開く。

「重症二名確認」

『状態は』

「一人意識無し」

「もう一人も危ない」

蒼真は呼吸音を聞きながら、周囲を確認する。

酸素濃度が落ちている。

長くは保たない。

『搬送急げ』

「分かってる」


ゴゴゴ……ッ

地下全体が大きく揺れた。


「っ!!」

奏が壁へ手をつく。

天井の亀裂が一気に広がり、粉塵が落ちる。

雨宮が即座に叫んだ。

「来るぞ!!」

次の瞬間。

轟音と共に天井の一部が崩れ落ちた。

「伏せろ!!」

蒼真が反射的に作業員へ覆い被さる。


コンクリート。

鉄骨。

視界が潰れる。

その瞬間。

右脚へ鈍い衝撃が走った。


「っぁ……!!」

骨が軋む音が、自分で分かった。

息が止まるくらいの痛み。

だが蒼真は歯を食いしばった。

「……雨宮!!」

「生きてる!!」

「奏!!」

「っ……います!!」

声で全員生存の確認が取れた。

蒼真はそこで初めて息を吐く。


だが右脚に力がを入れたくても嫌な痛みが走って入らない。

奏の顔色が変わった。

「隊長、脚……」

蒼真は視線だけ落とす。

瓦礫が右脚へ直撃していた。

血も出ている。

それでも立ち上がろうと蒼真がした瞬間。

激痛が突き抜けた。

「っ……」

膝が揺れる。


右足骨折。


全員が察した。

地下へ沈黙が落ちる。

奏の脳裏に嫌な考えが浮かんだ。


ーこんな状態で帰せるのか?


蒼真は壁へ手を付きながら、無理矢理身体を起こした。

それでも蒼真の姿にそんな考えはすぐに消し飛んだ。

「……まだ動ける」

「いや無理だろ!!」

奏が珍しく怒鳴った。

「肩死んでる!脚もやってる!!」

それでも蒼真は前を見ていた。

奥にはまだ意識の無い作業員が居る。

「置いてけねぇ」

その一言だった。

その瞬間、無線の向こうで、蓮が低く息を呑む音がした。

『蒼真』

蓮の声が低く落ちる。

無線越しなのに、空気が張った。


『下がれ』


短い命令。

だが蒼真は動かない。

「無理だ」

『脚やったんだろ』

「まだ歩ける」

『蒼真』

今度は声が変わった。

怒鳴っていない。

だから余計に怖い。


『……お前、今何本折ってんだ』


奏が息を呑む。

蒼真は少しだけ笑った。

「数えてねぇよ」

『ふざけんなっ』

珍しく蓮が感情を荒げた。


地下は静まり、奏も雨宮も動けない。


昔。

止まらない蒼真を止めていたのは、いつも蓮だった。

そしてそれは今も変わらない。


『撤退しろ』

「まだ残ってる」

『お前が潰れたら終わる』

蒼真は壁へ寄りかかりながら、浅く息を吐いた。

肺が痛い、右脚ももうまともに力が入らない。

でも、奥には意識の無い作業員。

置いていけば死ぬ。

「……蓮」

蒼真は小さく呼ぶ。

『なんだ』

「お前なら置いてけるか」

無線の向こうが止まった。

数秒。

いや、もっと長かったかもしれない。

その沈黙だけで分かる。

蓮も答えを知っている。


“置いていけない。”

それが第一特務遊撃隊だから。


『……チッ』

小さな舌打ち。

その後、蓮は低く言った。

『生体反応、全員追跡中』

『崩落予測ルート送る』

『三分以内に抜けろ』

それは


撤退許可じゃない。

“全員連れて帰れ”だった。


蒼真は小さく笑った。

「了解」

その瞬間、地下奥で再び大きな軋み音が鳴った。

「隊長、天井!!」

奏の叫び。

亀裂が走っている。時間が無い。

蒼真は即座に動いた。

「雨宮、意識無い方担げ」

「了解」

「奏、もう一人頼む」

「っす!!」

二人が即座に作業員を抱え上げる。

蒼真も動こうとして——

右脚が崩れた。

「っ……!」

膝が落ちる。

激痛が全身を走る。


奏の顔色が変わった。

「隊長!!」

だが蒼真は左脚だけで無理矢理立ち上がる。

「……行ける」

「行けてねぇよ!!」

奏が怒鳴る。

その瞬間。


ゴゴゴゴ……ッ!!


地下全体が大きく揺れた。

崩落が連鎖し始める。

天井が落ちる。

通路が裂ける。


「走れーーっ!!」

蒼真の怒声が地下へ響いた。

第一特務遊撃隊は、崩れ落ちる地下通路を駆け出した。



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